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ハキリアリ──輸入にまつわるエトセトラ
 └─ 2024/04/19
 多摩動物公園のキャッチフレーズは「アリからゾウまで出会えるところ」です。アリは、体は小さくても当園を代表する生きものといえるでしょう。展示しているのはハキリアリというペルー産のアリ(Atta sexdensの一種)で、その名のとおり葉を切り、葉の養分で菌類を育てて食べるようすから、農業をするアリとも呼ばれています。


葉を運ぶハキリアリ

 当園では20年以上ハキリアリの展示を続けていますが、次世代の女王を交尾させる技術が確立できていないことと、過去飼育していた群れの女王が5年前後で死亡していることが多いため、定期的に海外から輸入しています。現在展示している群れは2019年に来園しており、4年以上経過していることから、昨年11月に次の展示候補として新たな群れを導入しました。

 新たに導入といっても、ハキリアリは簡単に輸入することができない生きものです。葉を切って生活するため、万が一外に逃げてしまった場合、日本国内の植物や農業に大きな影響を与える恐れがあるため、輸入・飼育する際に農林水産省の許可が必要になります。絶対に逃げないような対策が講じられた施設か、管理は適切かなど、さまざまな条件をクリアしなければ輸入することができないのです。また、植物防疫官が毎年施設を訪れ、適正に管理されているかチェックし、合格しなければ飼育を継続することができません。

 アリの輸入は国内の昆虫関連業者に委託し、採集は現地の採集が得意な方にお願いしています。採集では、女王と働きアリのいる菌園(きんえん)を巣ごと採取します。ハキリアリは現地でよく見かける種のためアリ自体は見つかりますが、巣の中の女王を捕まえるのは大変です。大きすぎる巣だとどこに女王がいるかわからず採集できないため、狙うのは巣が小さい若い女王です。巣の外にあるゴミのようすなどから、若い女王がいそうな場所の土を掘るのですが、その際に働きアリが手足を噛んで攻撃するため採集は困難を極めます。


採集した女王と菌園(撮影:株式会社エルアイエス 宮川崇)

 今まで数名の方に採集をお願いしましたが、成功したのは1人の方だけで、ちょうどよい巣を探すコツと、アリの攻撃にもめげないメンタルが必要なようです。過去、当園の職員も現地で採集を試みたそうですが断念したと伝え聞いています。


ハキリアリ採集(撮影:株式会社エルアイエス 宮川崇)

 今回ご紹介したハキリアリの群れは、女王の状態もよく菌園も日々成長しています。今の展示群の予備として控えているので、みなさんの前に登場するのはまだまだ先のことになる予定です。

 採集を含め、輸入や飼育するうえでハードルが高いハキリアリ。日本では多摩動物公園でしか見ることができないので、ぜひそのすがたを見に来てください。


輸入から3か月経過したハキリアリの群れ

※ハキリアリは昆虫園本館2階で展示中ですが2024年4月現在、エレベーターの故障のため、車いす・ベビーカーをご利用の方は直接ご覧いただくことができません。1階入り口付近で展示(一部)のLIVE映像がご覧いただけます。ご迷惑をおかけしますがご了承ください。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 佐々木〕

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