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キリンの群れの維持管理
 └─ 2023/10/20
 多摩動物公園では1962年のアフリカ園完成以来、キリンの群れ飼育を維持継続しています。現在までに198頭ものキリンが当園で繁殖し、群れは最大で30頭を超えていた時代もあるようです。2023年10月現在、キリンの群れには17頭がいます。現在では群れ全体の栄養状態を適切に保つとともに、新しい施設の規模をふまえて20頭を超えない頭数を維持しています。

 新しいキリン舎へ引っ越したのを機に、繁殖オスの「ジル」を隔離飼育に切り替えました。以前の繁殖オスは相性のよい繁殖相手が限られたために繁殖頭数が抑えられていましたが、たいていのメスと相性がよいジルには多くの子ができました。今まで繁殖していないメスも子孫を残すことができたというメリットはありましたが、ジルの能力はあまりにも高すぎました。

 多摩動物公園は日本動物園水族館協会の生物多様性委員会で日本国内のキリンの血統管理を任されています。国内全体のキリンの血統をふまえたうえで繁殖計画を立て、動物園どうしで個体を移動して繁殖を進めていきますが、特定の血統ばかりが増えてしまうと遺伝的多様性を低下させ、繁殖力やさまざまなリスクへの対応力が低下するなど悪影響が出る可能性が高まります。

 国内全体の状況をふまえてもジルの子をこれ以上増やせないため、群れから隔離しました。それと合わせ、オスの子たちにも群れの安定と予定外の繁殖を防ぐための対策が必要となります。性成熟に達したオスは群れの中で闘争を起こし、ほかのメスと交尾をしてしまうので、2020年から群れの若オスの去勢手術を実施しています。昨年まで6頭のオスで実施してきました。

 しかし、今年の1月に実施した「ジジ」の去勢手術では麻酔時に個体が死亡する事故が起きてしまいました。毎日見ている飼育担当者が見ても健康状態に問題はなかったのですが、これまでの知見にもとづく一般的な成長状況と比較すると想定していた以上に発育状態が悪く、体重もかなり軽かったために麻酔薬のショックが大きくなってしまったようです。

 すぐに獣医と飼育担当に課長・係長を交えて反省会をおこない、問題点を洗い出して次回の去勢手術時にいろいろな点を改善することにしました。今までは精巣が確実に降りていて十分な体力のある1歳半以降で実施していたのですが、より月齢が低い方が身体への負荷が少ないと考え、昨年の8月生まれの「ジュン」を1歳1か月で施術することにしました。施術の2週間前から隔離飼育をおこないますが、前回の反省を生かし、推定ではなく体重の実測を試みました。

 草食獣であるキリンは警戒心が強いので、少しずつ慣らさないと測定できないのではないかと考えましたが、嗜好性の強いえさで誘導すると隔離初日から段差のある体重計にあっさりと乗ってくれました。体重は272kgでその後も落ち着いてえさを食べていたので体重推移も安定し、施術前々日で275kgでした。絶食も1日に減らして身体への負荷を軽減しましたが、体重が正確に把握できていたため麻酔量も正確で、麻酔薬の効きや覚醒も良好でした。


 今まで実施してきた個体の体重は500㎏を超えていたために身体の保持や移動なども大仕事でしたが、体重が半分なので作業的な負担も軽くてすみました。また、施術した傷口も小さくてすむために回復が早かったことも早期施術の利点でしょう。

 今後、施術が予定されている個体は、残念ながらすでにジュン以上の月齢に達していますが、体重測定が予想していたよりも容易におこなえることがわかったのは大きな収穫です。治療などで麻酔をかけるときや投薬の際にも役立ちます。これからも群れ飼育を維持していくために、反省点を振り返り、去勢手術を含めた群れの維持管理の技術を少しずつ向上させていきたいと考えています。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 熊谷〕

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