上野動物園では、日本産ライチョウの人工授精による繁殖に取り組んでいます(
2021年のお知らせはこちら)。この取組みにより、2024年7月に6羽のひなが孵化したので、ご紹介します。
上野動物園のように、本来の生息地ではない施設で飼育・繁殖をおこない、個体数を増やして絶滅から守る取組みを「生息域外保全」といいます。飼育下で個体群を健全に保つには、遺伝的多様性を維持することが重要です。
そのためには、野生由来の新しい血統を生息域外保全の個体群に導入する必要がありますが、じつは上野動物園には、2015年に野生のライチョウの巣から採取した卵が孵化した個体で、これまでひなを得ることができていない「N6」と「N9」という2羽のオスがいました。もともとほかの動物園で飼育していましたが、メスとの相性が悪いなどの理由で自然交配による繁殖が難しいため、人工授精で子孫を残すために、2021年と2022年に上野動物園にやってきたものです。そこで今年、この2羽のオスを用いた人工繁殖を目指しました。
ライチョウの繁殖期は春から夏にかけてです。まずは人にマッサージされることにオスを慣らすため、4月8日から毎日採精マッサージをおこない、4月下旬から精子を得ることができるようになりました。そして、メスの産卵の少し前から産卵期間中にかけての5月24日から6月25日まで、計9回、N6とN9の精液を混ぜたものを2羽のメスに注入しました。

N6から採精するようす
この人工授精により12個の有精卵を得ることができ、それらを孵卵器(ふらんき:卵を孵化させるために一定温度であたためる機械)で管理をした結果、7月9日、10日、16日にそれぞれ1羽ずつ、17日に3羽が生まれました。計6羽のひなを、遺伝子を用いた検査により父親と性別を調べたところ、N6とN9を父親とするひなが、それぞれオス1羽メス2羽ずつであることがわかりました。
また、今年はこの2羽の精液の凍結保存もできました。これは、後の人工繁殖に活かすことができます。野生由来の個体すべての遺伝子を飼育下の集団に導入し、遺伝子の多様性を保つことが、生息域外保全をおこなう動物園の務めでもあるのです。
孵化したひなは80日齢を超え、おとなに近い大きさまで育ちました。オスには、なわばりを主張するなど、おとなに似た行動も見られています。N6とN9の遺伝子を受け継いだ6羽が、今後のライチョウの生息域外保全に貢献していくことを期待しています。

休息するひなたち(2024年8月11日撮影)
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