ニュース
日本産ライチョウの保護活動について紹介します!──上野動物園と富山県の取組み(2)
 └─ 2022/02/20
 前回の記事では、富山県で実施された生息数の調査についてご紹介しました。今回は、生息地の外である東京で上野動物園がおこなっている取組みについてご紹介します。

2.東京でライチョウを育てるということ──上野動物園の取組み

 「生息域外保全」という言葉を聞いたことがありますか?

 絶滅のおそれのある野生動植物種を、動物園などその自然の生息地外において、人間の管理下で繁殖させて保持することで絶滅を回避することを「生息域外保全」と言います。上野動物園では2015年から環境省が進めるライチョウ保護増殖事業に協力し、生息域外保全に取り組んでいます。

 なぜ、わざわざ生息地ではない場所で動物を飼育するのか、と疑問をもつ方もいらっしゃるかと思います。生息域外保全には以下のメリットが挙げられます。

① 野生復帰
 生息地での数が少なくなってしまっても、動物園や保護施設で飼育されていた個体を野生に返し、そこで定着させることができれば、その種を絶滅から救うことができます。コウノトリやトキはこの方法で成功し、再び大空を舞う鳥たちの姿を見ることができるようになりました。

 ライチョウにおいては、2020年に当園をはじめとする各地の飼育施設で産まれた卵を野生のライチョウの巣に戻し、生息地に返す取組みが実施されました(このときは残念ながら失敗に終わりました)。

② 飼育技術からのフィードバック
 2021年、当園において、日本で初めての人工授精によりライチョウのひなが孵化しました(詳しくはこちらの記事)。人工授精の技術を確立できれば、ライチョウ自身を移動させなくても、遺伝子の多様性を維持しながら数を増やすことが可能となります。

 また、ライチョウを飼育することでさまざまな知見も蓄積されてきました。たとえば、飼育下で孵化して育ったライチョウは、野生個体がふつうにもっている腸内細菌をもっていないため、消化効率が悪いことがわかりました。飼育下で繁殖した個体を野生復帰するためには腸内環境から整えておく必要があることから、与えるえさに工夫をこらしたり、卵の状態のうちに野生に返したりする試みがおこなわれています。

 このように、飼育技術からのフィードバックが野生のライチョウ保全に役立てられているのです。

③ 展示することでみなさんに知ってもらえる
 多くのみなさまにライチョウの姿を実際に見て、知っていただくことも、動物園の重要な役割のひとつです。本や写真とは違い、生きているからこそ、動物も日々変化していきます。特にライチョウは季節により姿が大きく変わるので、何度見ても新しい発見があるかもしれません。

 また、ライチョウの展示施設にはさまざまな解説パネルも設置していますので、そちらもご覧になれば、より深くライチョウについて知ることができます。ぜひ動物園で本物を見た興奮をエネルギーに、彼らのことに興味を持ち、我々といっしょにライチョウの今後について考えていただければと思います。


人工授精で孵化したライチョウひな
(撮影日:左 2021年7月17日、右 2022年1月20日)

 このように、生息地の自治体をはじめ生息地の外の飼育施設や研究機関では、協力しながらライチョウの保全活動を実施しています。

 今後も上野動物園では、富山県や各機関と連携しながらライチョウについての普及活動も実施していきますので、みなさんがライチョウのことを知るための手助けになれば幸いです。

〔恩賜上野動物園教育普及課 伊藤〕

(2022年02月20日)



ページトップへ