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クマ、ついに冬眠? 冬眠チャレンジ
 ──2006/12/19

 2006年4月にオープンした「クマたちの丘」では、ニホンツキノワグマの冬眠展示を試みています。クマの自然な行動である冬眠を展示するのが狙いです。このたび、2006年12月18日(月)、ついに丸一日眠るようになりました!

 今から30年以上前、現・上野動物園園長の小宮輝之が多摩動物公園の飼育係だったとき、クマが冬になってボーッとしているのは、冬眠したいためではないか、と考えました。そうした思いや日々の観察が新クマ舎での「冬眠」展示のアイデアにつながりました。

 上野動物園ではこれまで、冬眠に関する情報の収集とともに、飼育上の研究を重ねてきました。

 冬眠させる個体はニホンツキノワグマのメス「クー」。2005年5月に新潟県で保護された個体です(推定2005年1月生まれ)。2005年7月15日に来園しました。来園時の体重は7kg。なお、クーといっしょに来園した「マー」(オス)は富山市ファミリーパークに旅立ち、現在、放飼場にはオスの「タロウ」(富山市ファミリーパークから来園)がいます。

東京ズーネットのこれまでの記事:
・動画  「クマの赤ちゃんの水浴び」
・ニュース「『クマたちの丘』オープン」
・ニュース「富山に旅立ったマー、新しくきたタロウ」
・動画  「ツキノワグマの冬眠施設」

 クーの体重を確認しながら餌の量を調整し、11月上旬、クーを冬眠のための部屋に移動。室温を徐々に下げて飼育を続けたところ、睡眠時間が増え、2006年12月18日、寝わらや落ち葉を引き込んだ部屋でついに丸一日眠るようになりました。「冬眠状態」に入ったかどうかについては、行動、呼吸数や心拍数などから総合的に判断します。

 クーのようすは、冬眠室前のモニターで見られます。眠りについたニホンツキノワグマのすがたを、そっと見守ってください。

●「冬眠チャレンジ」の詳細

 2006年8月、研究準備の特別班が組織され、調査・研究・準備を進めつつ、2006年11月から冬眠展示に向けての具体的な作業が始まりました。展示は4月中旬までを実施期間と想定しています。記録項目は、体重、体温、呼吸数、心拍数、室温、湿度、照度など。

 冬眠をうながし、冬眠行動を展示するための部屋は三つにわかれています。「屋内展示室」は観覧スペースから窓ごしに中が見える部屋。それに続く「冬眠前室」は、来園者の方には見えませんが、クーラーや計測機器などが設置してある部屋。そして、その奥の小室が「冬眠室」(冬眠ブース)です。

 9月中旬には餌の果物や堅果を増やし、10月には餌全体を増量。通常の約1.5倍にしてから、11月上旬には餌量を減らし、クーを屋内展示室に入れました。11月中旬には冬眠前室に移し、東北地方の気温を参考にして3℃を目ざして室温を下げていきました。12月中旬には絶食。なお、冬眠前室にある水を飲めるように、冬眠室と冬眠前室のあいだはドアは開けたままにしました。

 クーラーのある冬眠前室は、11月20日から毎日少しずつ下げるようにしました。その冷気により、隣の冬眠室も徐々に冷えていきます、クーが終日眠るようになった12月18日、冬眠室の室温は6.2℃でした。

 冬眠中のクマは体温が下がり、呼吸数や心拍数が減るとともに、餌や水を口にしなくなり、排泄や排尿も見られなくなります。こうした変化を把握するために、首都大学東京の協力を得て、冬眠室には呼吸数と心拍数を測定する装置(マイクロ波によって、体にふれずに測定することができる)、および暗視カメラを設置し、すべてをコンピューターに記録するようにしました。

 クマは通常、体温が37.5℃から38.3℃、心拍数は60から90/分、呼吸が15から30/分とされています。2006年12月17日と18日、目でクーの呼吸数を確認したところ、1分に3回でした。休息と睡眠時間は12月1日からしだいに増えてきていました。

 今後もクーのようすを見ながら、展示を続けます。どうぞ、眠りについたクーをそっと見守ってください。

・詳細な数値データについては、こちらのPDFファイルをごらんください。内容は、体重の変化、給餌量の変化、室温の設定と変化、睡眠時間です。

写真上:冬眠前のクー
写真中・下:モニターに映し出されたクー

(2006年12月19日)



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