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アジアゾウ「アーシャー」出産当日のようす
 └─2011/09/30

 アジアゾウの共同繁殖のために豊橋総合動植物公園(愛知県豊橋市)にお嫁に行っているメスのアーシャー(推定34歳)が2011年9月17日(土)に出産しました。出産は16日(金)の夜からはじまり、生まれたのは日付が17日に変わった午前0時30分ごろです。子どもはメスでした。

 アーシャーは2009年10月に豊橋に移ってすぐ妊娠しました。その後、定期的な健康診断などを続け、来たるべき日に備えてきました。アジアゾウの妊娠期間は640~660日と範囲が広く、出産日を事前に特定することができませんでしたが、豊橋で継続しておこなわれていた血液検査によってホルモン値を測定し、出産の目安にしました。最近の研究で、出産前になると妊娠を維持するホルモン値が急激に下がることがわかっていたためです。

 9月12日、ホルモン値が半減するとともに、アーシャーが夜間に落ち着かない行動を見せるようになったため、9月15日、私たち上野動物園の職員も豊橋に急行して、出産に備えることにしました。とはいえ、ホルモン値が減少してから出産するまで一般に4~8日ていどの幅がありますし、アーシャーは妊娠してまだ 630日ぐらいでした。それに、日中の行動や食欲等には変化が見られなかったため、次の日の夜に出産が始まるとは思ってもいませんでした。

 16日は日中から粘液が出始めたため、担当職員全員で夜間観察をすることにしました。夜、アーシャーはうろうろと落ち着かない行動を見せるようになりました。午後8時過ぎには破水を確認。破水後しばらくは落ち着いていましたが、次第に陣痛の兆候があらわれ、苦しそうにいきんでは、また落ち着くという行動が約30分のサイクルで繰りかえされます。その間隔は徐々に短くなり、アーシャーはうろうろと動き回りながら、止まってはいきむ行動を繰り返し、ときおりしゃがんだり、寝転がったり、苦しそうな仕草も見せていました。そして日付の変わった9月17日午前0時36分、二次破水の直後、袋状の羊膜に包まれた子ゾウが生まれました。

 産み落とされると同時に羊膜が破け、子ゾウが姿を見せました。鼻が動くのがすぐに見えたので、無事に生きて出産されたことが確認できました。

 子ゾウの出産時の体重は90キログラム、体高(高さ)が90センチメートルで、平均的な大きさです。現在、アーシャーの部屋の隣にある子ゾウ部屋に入っていますが、授乳は母親のアーシャーではなく、飼育係がおこなっています。じつは、初産の母ゾウに多く見られる行動なのですが、出産直後、子ゾウに対するアーシャーの攻撃が激しく、その後も子ゾウを受け入れようとしないので、親子を一時的に分け、ようすを見ることにしたのです。

 子ゾウは、誕生後10日で体重が10キログラム近く増え、順調に育っています。柵越しですが、毎日、母親アーシャーと顔合わせをさせたり、触れ合わせたりさせており、ようすを見ながら時間をかけて一緒にしていく予定です。

 34歳という年齢でアジアゾウの初出産がうまくいった記録は世界的にも例がなく、私たちは当初から不安でいっぱいでした。今回、母子ともに健康面に大きな問題が生じず、無事出産にいたったことは、それだけで喜ぶべきことなのかもしれません。

 アーシャー、子ゾウともに、当分は豊橋総合動植物公園でくらすことになります。子ゾウの公開日は未定ですが、もし豊橋にいらっしゃる機会があったら、ぜひアーシャーにご苦労さまと声をかけてやってください。

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写真上:子ゾウの身体測定中
写真中:日に日に大きくなっています
写真下:柵越しに母子の顔合わせ

〔上野動物園東園飼育展示係 乙津和歌〕

(2011年09月30日)



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