多摩動物公園のアジア園シマウマ・オリックス舎の上にある「馬上コウノトリ舎」にはコウノトリともう1種、黒い鳥がいっしょにくらしています。その鳥はナベコウという種でコウノトリ目コウノトリ科に分類されます。成鳥はくちばしと脚が赤く、光沢のある黒い体が特徴です。しかし、ひなはくちばしが薄い黄色で、真っ白のフワフワな羽毛に覆われています。
2023年は“真ん中ケージ”と“ヤングケージ”(※図参照)であわせて6羽のひなが生まれました。
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馬上コウノトリ舎の配置図 | 孵化後16日のひな |
えさはアジとワカサギを与えていますが、繁殖に向けて産卵を始める少し前から栄養価の高いドジョウを追加します。ドジョウは親鳥の体力維持や孵化したひなの成長の助けになり、繁殖に欠かせないえさのひとつです。しかし、いっしょのケージでくらしているコウノトリはドジョウが大好物で、ナベコウよりも力が強いので先に食べつくしてしまいます。多摩動物公園では、ナベコウだけが食べられるように工夫したえさ台を設置してドジョウを与えています。
繁殖期のナベコウは攻撃的になり、
育雛中は威嚇や攻撃がより激しくなります。真ん中ケージのナベコウは飼育係がケージに入ると、威嚇の鳴き声を出し、ときには飛んできてくちばしでつついて攻撃をしてきます。安全対策としてヘルメットをかぶって作業をしていますが、攻撃はヘルメットをしていても衝撃がわかるほどの威力です。ひなを守るために人間に立ち向かう親鳥の強さと愛情の深さを感じつつ、ケガをしないように気を付けて作業しています。
ひなは巣立ちまで巣を出ることがないため、えさは親鳥が運んできます。孵化直後は片方の親がえさをとりにいき、もう片方の親は巣に残り体温調整ができないひなをあたためます。ひなの成長にともない食べる量が増え、両親は一度巣を離れてえさをとりにいくようになります。
親鳥は胃にえさを溜め、巣で吐き出し、ひなはそれを食べます。口移しではないため力の強い子が先にえさを食べてしまい、しだいにひなの中で体格に差が出るようになりました。力の弱い子の成長を心配していましたが、親鳥の熱心な子育てのおかげでひなは順調に育ち、真ん中ケージのひなは5月下旬に、ヤングケージのひなは6月下旬に巣立ちを迎えました。
巣立ち後の幼鳥はくちばしと脚が白っぽく体には光沢があまり見られません。これから1年ほどはこの姿ですが、徐々にくちばしと脚は赤く体は光沢のある黒色へと変わっていきます。昨年、ヤングケージで生まれたナベコウの幼鳥は、成鳥の色へと変わり始めています。
巣立ち間近のひな
幼鳥たちの成長を見守っていきながら、成鳥への移り変わりも見てみるとおもしろいかもしれません。
〔多摩動物公園南園飼育展示第2係 髙野〕
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