多摩動物公園の昆虫生態園では、カラスアゲハの累代飼育に力を入れています。カラスアゲハは日本のほぼ全土に分布している美しいアゲハチョウのなかまで、幼虫はコクサギやカラスザンショウを食草(幼虫のえさとなる植物)としています。園内で飛んでいる姿を目にすることもあり、特別珍しいわけではないカラスアゲハですが、昆虫生態園で累代飼育するためにはシロオビアゲハやナガサキアゲハといったミカン類を食草とするアゲハチョウたちの飼育とは違った工夫が必要です。
吸蜜するカラスアゲハ
春の時期に昆虫生態園で観察できるカラスアゲハは、「
越冬蛹」という蛹から羽化した個体です。越冬蛹は何ヵ月もえさを食べずに生き延び、寒さにも耐えられます。2週間ほどで羽化する通常の蛹と異なり、冬を越すことができる蛹です。
カラスアゲハは越冬蛹でも通常の蛹でも、それぞれ緑色と茶色の2種類があります。緑色の越冬蛹は側縁が茶色くなるため通常の蛹と簡単に区別できますが(写真)、茶色の越冬蛹と通常の茶色の蛹の区別は困難です。
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カラスアゲハの越冬蛹 | 越冬蛹ではないカラスアゲハの緑色の蛹(通常の蛹) |
1月から4月ごろの寒い時期はカラスアゲハの幼虫の食草であるコクサギやカラスザンショウの葉が落ちてしまうため、卵を採ることができても新たに幼虫を育てることができず、何もしなければ累代飼育を続けることはできません。また、食草用の温室は十分なコクサギを育てるだけの余裕がないため、カラスアゲハの累代飼育を続けるために、蛹の期間が長い越冬蛹を活用し、寒い時期を乗り越えています。
多摩動物公園では、カラスアゲハの幼虫を若齢のときから常に暗い部屋で育てることによって、ほとんどの個体を越冬蛹へ変態させることに成功しています。幼虫が若い時期から暗い環境で飼育することが重要で、蛹になってから暗い環境においても越冬蛹にはなってくれません。
越冬蛹になったあとは低温恒温器の中で、8℃程度で4ヵ月以上保管し、羽化に備えます。チョウの飼育室は秋や冬でも暖かいため、この手順を踏んで冬を感じさせます。その後、恒温器から取り出し、春を感じさせることで適切な時期に羽化させることができます。越冬蛹に寒さを感じさせず暖かい部屋で管理し続けると、春になる前に羽化してしまうこともあります。
カラスアゲハは常時展示しているわけではありませんが、昆虫生態園で見かけた際は、その裏に隠れた飼育の工夫があることを思い出しながら美しい姿を楽しんでください。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 城〕
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