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冬は「ミイラ」のような姿に──スジグロシロチョウの越冬
 └─2019/05/2

 3月になり、菜の花畑に白い小さなチョウ、モンシロチョウが舞うのを見ると春の訪れを感じます。モンシロチョウは卵から成虫になるまでに約1か月。成虫になってからも7~10日前後の命です。暖かい季節にはこのサイクルを5〜6回繰り返しますが、冬になって植物も枯れる頃にはすっかり姿を見なくなります。それでも、次の春になるといつのまにか現れる……。モンシロチョウは3~4か月続く冬のあいだはどうしているのでしょうか?

 多摩動物公園でも昆虫生態園で、モンシロチョウに近いなかまのスジグロシロチョウを飼育展示しています。温室内は冬でも約20℃の温度を保ち、幼虫が食べる「食草」としてクレソンも用意してあります。クレソンに産みつけられた卵が孵化し、幼虫がある程度成長したら回収し、育成室で食草を与えながら飼育します。昆虫生態園という環境では、これらのチョウたちは生活のサイクルを年間ずっと繰り返せると私は思っていました。

スジグロシロチョウの越冬蛹(上)と通常の蛹(下)
越冬蛹

 ところが昨年、晩秋を迎えた11月ごろ、順次蛹になったものの、なかなか羽化しない蛹が増えました。それまでは、緑色をした蛹と茶褐色の蛹の2種類が見られていました。蛹になる場所や気温などで体色に違いが現れていたようです。ところが、緑色の蛹を見なくなり、茶褐色をした蛹ばかりになったのです。固くて渇いた表面は「ミイラ」を思わせる蛹たちです。

 じつはこの茶褐色の蛹は「越冬蛹」(えっとうよう)なのです。つまり、寒い冬を蛹の状態でやり過ごし、春になると生き返ったように羽化してチョウになります。昆虫生態園は室内は暖かく、しかも育成室は夜間でも点灯している状態なのになぜ?

 これは、温度だけでなく、日長、つまり明るい時間の長さにも大きく左右されるからです。大温室は自然光が入るのみで、電灯はありません。しかし、育成室には照明があるとはいえ、越冬せずに過ごせる条件ではなかったようで、100を越える大量の蛹のほとんどが、4月ごろまで蛹のままでした。こうした越冬蛹は、日が短く、寒い時期が3〜4か月続く冬を経ないと羽化しづらいようです。

 もしかしたら、羽化しないかも……と心配していたのですが、野外でモンシロチョウが現れて半月ほどしたころから、パラパラと羽化し始めました。野外では冬の低温を経験すると春になって「いっせいに」羽化します。充分な低温を体験しないと、「少しずつ」羽化することになるようです。寿命の短いチョウたちにとって、本来のくらしのとおり「いっせいに」羽化するほうが、繁殖相手となる仲間を見つけて自分の子孫をより多く残すことができるのでしょう。現在、昆虫生態園にいるカラスアゲハやナミアゲハ、モンシロチョウ、スジグロシロチョウは、こうして冬を越えてきたチョウたちです。

 春になると急に現れるように見える昆虫たちですが、小さな体でいろんな工夫をしながら、長く厳しい冬を越えて生きています。小さな昆虫たちの懸命に命をつなぐ営みに、ただ感心するばかりです。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 高原由妃〕

(2019年05月24日)


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