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チンパンジー「イブキ」と群れの仲間たちの1年
 └─2020/04/03

 多摩動物公園でチンパンジーのオス「イブキ」が生まれたのは2019年4月30日(ニュース)。あと1か月ほどで満1歳を迎えます。その成長ぶりを振り返ります。

 母親「モモコ」は4回目の出産、ベテランのお母さんです。分娩は私たち飼育係の目の前で始まりました。自分で子を受け止め、臍帯を切り、胎盤もすぐに食べてしまいました。弱々しく見える生まれたての子をモモコはしっかりと胸に抱き、私たちを安心させてくれました。目は人間の子と同じように斜視気味でしたが、生後3週間ほどで顔つきがしっかりしてきました。

 昨年6月、放飼場にデビューした後、イブキはメスたちのアイドル的存在となりました(ニュース)。とくに10代から20代の若いメスたちのイブキに対する関心はすさまじいものがありました。母親のモモコが、最初にイブキを抱くことを許した個体は、モモコの娘でありイブキの姉である「ミカン」でした。


ミカンとイブキ

 モモコがイブキを抱いていると、メスの「ミル」や「ベリー」、そしてオスの「ジン」も近寄って来て、覗きこんだり、モモコに対してグルーミングをしていました。そのようすは、「赤ちゃんに優しくするから信用してね、抱かせてね」と言っているかのようでした。しかし警戒しているモモコはすぐに触らせてはくれません。するとミルが「少しだけでいいから触らせて!」と言うかのように騒ぎ、群れの仲間たちから呆れられていることもありました(ニュース)。

イブキを背負うチコ。ついていくフブキ
イブキとフブキ

 子育てのベテランであるモモコはおおらかにイブキを育て、8月にはミルとジンにもイブキを抱くことを許し、9月にはイブキの兄である「フブキ」(6歳)にもまかせるようになりました。得意気にイブキを抱きながらフブキが見せるアクロバティックな行動に私たちはひやひやしましたが、モモコもそれは同じだったようです。イブキが怖くなって泣くと、モモコは駆けつけてフブキからイブキを取り上げます。フブキも子が泣くと「しまった……!」といったようすでモモコにイブキを返しに行っていました。今ではイブキが成長したため、モモコも監視の目を緩めています。

 ふだんあまり仲間たちに興味がないように見えるメスの「チコ」もイブキにはとても興味があり、近くでそっと触れたり、ロープなど危ないものがあると大丈夫かどうかなんとなく見ていたり、背中に乗せて散歩してみたり、高い高いをしたりしています。イブキも最初から遊んでくれていたチコになついているように見えます。

チコとイブキ
現在のイブキ

 イブキは今、とても活発で段差を見つけては飛び降りて遊んでいます。格子につかまってぶら下がり、移動することもできます。えさもよく食べ、自分がほしいえさがもらえないときは大声で泣いて自己主張をします。そんな時はモモコとフブキが少しだけえさを譲っています。

 イブキが生まれてからおとなたちの行動は大きく変わりました。メスたちの行動を見ていると、赤ちゃんをかわいいと思っていることがよく伝わってきました。こうして育児経験のないメスは出産前に子育てを学んでいくのでしょう。群れで生活するチンパンジーにとって「群れの中での子育て」は、親子にとってはもちろんのこと、すべての個体にとってとても大事なことなのだと日々感じさせられます。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 野田瑞穂〕

(2020年04月03日)


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