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トキの繁殖技術向上を目指して
 └─2018/10/12

 多摩動物公園は環境省が進めるトキ保護増殖事業に協力するため、2007年に佐渡トキ保護センターからトキをあずかり、非公開エリアで飼育をおこなっています。

・関連記事「トキの飼育を始めます!」(2007年12月10日)

 今年(2018年)は、毎年繁殖成功している3ペアだけでなく、新たに受け入れた1ペアを加え、4ペアで繁殖を試みました。4月20日には今年初めての孵化を確認し、その後8羽のひなが無事に巣立ちました。特に新しいペアは初めての繁殖にもかかわらず、2羽の繁殖に成功しました。

・関連記事「2018年は8羽のトキが育っています

左:偽物の卵(擬卵)
 右:本物の卵
孵ったひなと孵化直前の卵
紐をつけた擬卵

 トキは先輩職員の試行錯誤によって毎年安定した繁殖に成功していますが、まだまだ課題が山積しています。

 課題の一つが「自然繁殖」、つまり、人が補助することなく親鳥だけで繁殖できるようになることです。多摩動物公園のトキには、抱卵中に意図的に巣から卵を落としてしまう行動や、孵化直前の嘴打ちの段階で親がくちばしでひなを卵から引っ張り出して捨ててしまう行動が見られています。そこで抱卵中に卵を取り上げ、プラスチック製の偽物の卵(擬卵)と交換し、人工孵化の後でひなを巣に戻していました。意外に思われるかもしれませんが、擬卵が突然ひなに置き換わっても、親はひなを攻撃することなく、しっかり抱き、給餌して巣立つまで育て上げるのです。

 しかし、私たちの目的はただトキを繁殖させることだけではありません。繁殖した個体を野外に放し、野生で世代をつなぐことができるよう、野生復帰を通じて保全に貢献する目的があります。環境省や佐渡トキ保護センターのこれまでの研究調査データによると、人がまったく関与せず、親鳥が自分たちで孵化させ育て上げた個体の方が、野生復帰後の繁殖成績がよいということが判明しています。

 自然繁殖を実現すべく、卵を落とすくせを防ぐために擬卵と巣を紐で固定したり、孵化したひなと孵化寸前の卵を同時に親に戻し、ひなに意識が集中している間に卵を孵化させる方法を試みたり、さまざまな発想で試行錯誤を重ねていますが、解決策は見つかっていません。

 先輩職員の工夫にならいつつ、解決に向けて考察と試行を積み重ねていこうと思います。

〔多摩動物公園野生生物保全センター 川鍋政孝〕

(2018年10月12日)


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