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“家”を背負ってくらすヤドカリの話
 └─ 2020/05/22

 ヤドカリは、磯の潮だまりや干潟などに行けば簡単に見つかる生き物なので、多くの方が見たり捕まえたりしたことがあるのではないでしょうか。葛西臨海水族園では、さまざまな水槽でヤドカリを展示しています。また、「しおだまり」コーナーでは触ることもできます。

 ヤドカリの“家”は死んだ巻貝の殻などです。硬い貝殻は、敵から身を守るシェルターの役割を果たします。さらに、ソメンヤドカリやジンゴロウヤドカリなどの一部のヤドカリは、殻にイソギンチャクを載せます。触手に毒のある刺胞を持つイソギンチャクを殻に載せることで、硬い貝殻を噛み砕いてしまうタコなどの敵からも身を守ることができます。


「深海1」水槽で展示中のジンゴロウヤドカリ

 ところが、一度“家”を見つければ安泰かというとそうではありません。ヤドカリは脱皮により成長し、体が大きくなります。一方で、貝殻の大きさは変わらないため、他のより大きな貝殻に引っ越しをしなければいけないのです。また、身を守るためには、貝殻が割れていたり、欠けていたりしていてもいけません。自然の海では、“良い”条件を満たす貝殻はそう簡単には見つからないので、ヤドカリたちは良い貝殻の奪い合いをするのです。


貝殻を奪うヤドカリ

 ヤドカリの貝殻をめぐる争いについて興味深いことがわかってきました。磯に生息するイソヨコバサミは、潮がひくと積極的に水中から出て、日光を浴びるようにじっとするという行動が知られています。まるで日向ぼっこのような、ほのぼのとする行動なのですが、実際はそうではないようです。

 最近の研究によれば、この行動は潮だまりの中でよい貝殻をめぐって繰り広げられる争いから逃れるための行動だと考えられています。狭く浅い潮だまりでは、ヤドカリどうしが出会って争う可能性も高くなります。そのため、生息環境である水中から出てまで、貝殻を取られないように避難しているというわけです。

 ヤドカリのように身近な生き物でも、生態や行動などわかっていないことがたくさんあります。みなさんも家の周りにいる身近な生き物に目を向けてみてはいかがでしょうか? ひょっとしたら、誰にも知られてないしぐさを見せてくれるかもしれません。

・関連ニュース:ヤドカリのいろいろな行動
 「お嫁さんを運ぶホンヤドカリ」(2003年5月9日)
 「イソギンチャクをめぐるヤドカリの攻防(2002年3月29日)

〔葛西臨海水族園教育普及係 田中隼人〕

(2020年05月22日)


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