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お嫁さんを運ぶホンヤドカリ
 └─2003/05/09

 先日、「しおだまり」水槽をのぞいていたところ、1匹のヤドカリが巻き貝を一つ、エイサ、ホイサと運んでいるのを発見! 一方のハサミアシ(ものを挟むことのできる一対の脚)で、貝殻のふちをしっかりとはさんで持っています。

 貝殻は空っぽ?──と思いきや、入口からヤドカリの脚や触角がのぞいてています。う~ん、何をしているのでしょう? いじめ? いやいや、そうではありません。じつは、オスのヤドカリがメスのヤドカリを運んでいるのです。

 冬から春、磯のしおだまりをのぞくと、同じようなオス・メスのペアを見つけることができるかもしれません。メスを持ち運びながら忙しげに歩きまわるオス。つかまえようとすると、メスを離すことなく、テコテコと逃げていきます。

 つかまえて手の平にのせると、オスは貝殻の中に体を引っ込めてしまうものの、メスを離そうとはしません。「死んでも離さない~」といった感じです。なぜオスはメスを必死で持ち運んでいるのでしょう? 

 成熟したメスをめぐるオスどうしの争いは、ヤドカリでもなかなかきびしいようです。オスは、ハサミアシを競争相手となるオスの貝殻の下に入れ、テコの原理で投げ飛ばして闘うといいます。そうやって争いに勝って、メスを手に入れても安心はできません。なぜなら、すぐに交尾ができるわけではないからです。

 交尾は、多くの場合、メスが脱皮(成長するために殻をぬぐこと)をした後にしかおこなわれないため、オスはしばらく待たなくてはなりません。そのあいだも、ほかのオスにメスを奪われないよう、ガードする必要があります。

 だったら、持ち運ぶのがいちばん確実ということなのでしょう。交尾のときまでメスをガードするこの行動は「交尾前ガード」と呼ばれ、ほかにもカニやヨコエビのなかまなどで報告されています。

 ところで、オスがどちらのハサミアシを使ってメスを持つか、というのも、なかなか興味深い点です。写真のオスは……左側のハサミアシで持っていますね。海で観察しても、ほとんど例外なく、左脚にメスを持っているそうです。

 ホンヤドカリのハサミアシは右側が左側より大きいので、小さなほうのハサミでメスを持ち、大きな右のハサミアシは他のオスを追い払うために使うのです。

 繁殖の時期、右のハサミアシがないオスがよく観察されるとのこと。ハサミがちぎれるほど激しく闘うのでしょう。

 メスを運ぶオスの背景には、オスどうしの熾烈な争いがあったわけですが、メスを持ってテコテコと歩くオスのすがたは、なんとなくユーモラス。運ばれるメスはどんな気分なのかと、余計なことも気になります(笑)。

 ぜひみなさんも、水槽や磯でお嫁さんを運ぶオスをさがしてみてください。              

〔葛西臨海水族園調査係 天野未知〕


(2003年05月09日)



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