2024年7月2日にツシマテンの展示を開始しました(ツシマテンの展示開始については
こちらの記事をご覧ください)。ツシマテンは、日本固有種であるテンの亜種です。亜種とは、種ほどの違いはないけれど、少し違うグループのことを指します。テンは、本州、四国、九州に広く分布するホンドテンと、長崎県対馬にのみ分布するツシマテンの2つの亜種に分けられます。
井の頭自然文化園ではずっとホンドテンを展示しており、今回のツシマテンの展示により、2つの亜種を見比べることができるようになりました。
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夏毛のツシマテン | 夏毛のホンドテン |
保護されたツシマテン
今回やってきたツシマテンのオス「ちゅう」は、2021年4月に対馬の物置小屋の中で保護されました。当時はまだ62.5gしかなく、目も開いていない幼獣でした。おそらく、親が巣を放棄してしまったと考えられます。「
NPO法人どうぶつたちの病院 対馬動物医療センター(以下「どうぶつたちの病院」)」で保護され一命をとりとめましたが、その後は人を怖がらなくなり、野生に戻すことはできなくなってしまいました。
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保護当時の「ちゅう」(写真提供:NPO法人どうぶつたちの病院 対馬動物医療センター) | 保護から約1か月後(写真提供:NPO法人どうぶつたちの病院 対馬動物医療センター) |
そこで、多くの人にツシマテンという生きものや対馬の自然の魅力を発信すること、そしてこのテンによりよい環境ですごしてもらうことを目指して、井の頭自然文化園で展示することになりました。ツシマテンは天然記念物であるため色々な手続きが必要でしたが、2024年6月、無事に移動の準備が整い、長崎県対馬にある「どうぶつたちの病院」まで迎えに行ってきました。
ちょっと寄り道──対馬の自然
東京から飛行機を乗り継いで対馬に到着し、事前の打ち合わせのために「どうぶつたちの病院」へと向かう道中で、対馬の自然を感じることができました。
対馬は約9割が森林におおわれている、自然豊かな島です。

対馬の山々
田んぼ周辺の道路を少し歩いてみると、野生のツシマテンのフンを見つけました。ヤマグワやムカデを食べたようで、タネや足がぎっしりと詰まっていました。
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ヤマグワのタネが入ったフン | ムカデの足が入ったフン |
ツシマテンと対面
そんな寄り道をしつつ「どうぶつたちの病院」に到着すると、ツシマテン「ちゅう」は初めて見た私に対しても特に警戒するようすはなく、興味津々で近づいてきました。
打ち合わせではふだんの行動や排便のようすなどについて話をうかがったり、輸送用のケージの使用方法について確認したりしました。その際、「興奮するとケージの中をぐるぐると跳びまわったり、ときどき大声をあげながら自分のしっぽにじゃれていることがある」という情報を聞くこともできました。

NPO法人どうぶつたちの病院 対馬動物医療センター
ツシマテンの大移動
翌日早朝に改めてツシマテンを迎えに行くと、すでに玄関に置いてあるケージの中に入り、落ち着いたようすで待っていました。その後の移動中も、びっくりするほど落ち着いていました。うとうとして眠そうなようすが見られたり、おやつを食べたり……隣で観察していてとても安心感がありました。
井の頭自然文化園に到着してからは、健康状態の検査のためにしばらく動物病院ですごしました。初日からえさをよく食べたり、水飲み周辺をびしゃびしゃにしたりと活発に活動していたようです。

園内の動物病院に到着し、早速餌を食べるようす
そうして無事に検査を終え、7月1日、いよいよ展示場にデビューする日を迎えました。
つづきは後編で!
〔井の頭自然文化園飼育展示係 大河原陽子〕
(2024年09月19日)