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ボルネオオランウータンの個体数回復をめざして
 └─多摩 2021/10/29
 2021年9月末現在、国内では31頭(オス18、メス13)のボルネオオランウータンが飼育されていますが、多摩動物公園ではそのうちの約3分の1にあたる11頭(オス6、メス5)を飼育しています。

 残念なことに国内の飼育個体は徐々に減少しており、繁殖を推進して個体数を回復させることが課題となっています。そこで、今回の記事では、多摩動物公園で進めている繁殖に関する取組みを3つご紹介します。

1.「ひな」の社会性学習

 オランウータンは、母親といっしょにすごすなかでさまざまなことを学習する動物です。人工哺育で育った個体は、学習の機会が限られるため、しばしば繁殖行動や育児行動に問題が見られることがあります。

 多摩動物公園では、昨年10月に釧路市動物園から人工哺育で育った「ひな」(メス、当時10歳、現在11歳)を受け入れ、他個体といっしょにすごすなかで、社会性を学習する機会を与えようと取組みをスタートさせました。しかし、慎重な性格のひなは、新しい環境になじむのに時間がかかり、なかなか他個体との同居を実現できずにいました。

 そこで、思い切ってひなと「ジュリー」(メス、56歳)、「チェリア」(メス、6歳)を柵越しに引き合わせてみることにしました。一度は失敗に終わってしまいましたが、時間をあけて再度挑戦をすると、すんなりとお互いを受け入れ、いまでは同じ放飼場で日中をすごすことができるようになりました。同居を開始してからのひなは、ジュリーとチェリアの行動をまねて、それまでに見られなかった行動を取るようになり、よりオランウータンらしい行動を見せています。

 今後も社会性学習を継続し、ひなの繁殖の可能性を高めていければと思います。


ひなとジュリーとチェリア

2.「ホッピー」が1歳に!

 昨年生まれた「ホッピー」(オス)が、10月30日に1歳の誕生日を迎えます。

 母親の「チャッピー」が47歳での高齢出産となったこともあり、どうなるものかと心配をしていましたが、チャッピーは体調を崩すこともなく育児をおこない、ホッピーはさまざまなことを学習しながらすくすくと成長しています。

 私たち飼育担当者は、チャッピーに栄養面でのサポートをおこないながら、母子の健康とホッピーの成長を見守っています。


チャッピーとホッピー

3.「リキ」の福岡市動物園への搬出に向けて

 2021年11月4日に、多摩動物公園で飼育する「リキ」(オス、8歳)を将来的な繁殖をめざして福岡市動物園へ搬出する予定です。

 今回の移動に向け、身体に負担がかかる麻酔を使った方法は避けて、リキが自ら移動用の輸送箱に入ってくれるよう馴致をおこなっています。これまでよりも誘導しやすい、ふだんから行き来している場所に輸送箱を設置すると、リキはほとんど警戒することなく、すぐに輸送箱に入り、いまでは馴致を楽しんでいるようすです。

 現在は、最後の扉を閉めるだけのところまで馴致が進み、後は当日を待つだけです。移動の当日、飼育担当者が緊張しているようすやふだんと違う雰囲気によって急に輸送箱に入らなくなるのは、実はよくある話。私たち飼育担当者も何とか平常心を保ちつつ、ご来園のみなさまにおかれましても、いつもと変わらぬ雰囲気で、そっとリキを送り出していただけたらと思います。

 なお、リキが新しい環境に早くなじむことができるよう、飼育担当者1名が同行して引継ぎをおこなう予定です。


【動画】リキの輸送箱馴致

〔多摩動物公園南園飼育展示係 山本〕

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