「アッロペトロリステス プンクタトゥス」(以下プンクタトゥス)──まるで呪文のようなこの言葉は、生き物の名前(学名)です。葛西臨海水族園「世界の海エリア」の「チリ沿岸」水槽で2019年3月から展示を始めました。見た目はカニのようですが、ヤドカリに近い動物で、和名ではカニダマシと呼ばれるグループに属します。じつは、不思議なのは名前や、カニのような見た目だけではありません。
【動画】アッロペトロリステス プンクタトゥスの食事風景
飼育を始めてからもうすぐ3か月。水槽の中でのプンクタトゥスの食事風景を撮影してみました。大きなハサミの近くに黄色いものが動いているのがわかりますか? 口のまわりにある、短い脚に毛のようなものがついたこの器官は「第3顎脚」と呼ばれ、これを使って水中に漂うプランクトンを捕えて食べます。
最初に与えたのは、プランクトンであるブラインシュリンプの幼生です。プンクタトゥスは脚をよく動かしながら食べ始めました。そこで、ゴカイやサクラエビを細かくミンチ状にしたものを与えたところ、これもよく食べます。小さなものは比較的何でも好んで食べることがわかりました。
りっぱなハサミ脚をもっているので、もっと大きなえさも食べるのではないかと考え、サクラエビを丸ごと与えてみたのですが、それにはまったく見向きもしませんでした。世界最大のカニダマシと呼ばれるほど大きな体と大きなハサミ脚をもっていますが、小さいえさしか食べないようです。
プンクタトゥスは、プランクトンを捕えやすい、水流の強い岩の表面でくらしています。どうやらこの大きなハサミ脚は、外敵から狙われやすい岩の表面で、自分の身を守るために使うハサミのようです。これだけりっぱなハサミ脚をもっているのに、えさを捕えるために使わないことは意外でした。
これから飼育を続けていくうえで、プンクタトゥスの「不思議」を発見するのが楽しみです。
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