催し物
8/12は「世界ゾウの日」! 動物園のゾウを守るために[その2]
 └─ 2020/08/13

 前回の「その1」では、国内の動物園でゾウの飼育頭数が減少傾向にあることと、それを防ぐための取組みとして「海外から新しいゾウを導入する」「繁殖して増やす」という2つの方法があるとご紹介しました。

 はじめに、「海外から新しいゾウを導入する」ことについて課題を考えてみましょう。新しいゾウの導入元は、野生のゾウか、他の施設で飼育されているゾウの2つが考えられますが、いくら動物園のゾウが少なくなっても、絶滅の危機に瀕している野生のゾウを捕らえて動物園に連れてくるようなことはできません。一方、海外の動物園などで飼育されているゾウは導入できるのでしょうか。近年の海外のゾウの飼育施設の基準を日本の動物園が満たしていないことから、日本の動物園にゾウを渡すことはできないと判断されることもあります。

 では、近年求められているゾウの飼育環境とはどういったものなのでしょうか? 簡単に2つにまとめてみました。

① 生息地に近い環境の再現
 野生のアジアゾウは主に森林で生活し、活動範囲も広いです。地面は土のため重い体重を支える肢への負担は少なく、歩き回ることで運動にもなり、足の爪も自然に削れます。そのため、飼育環境もそれに近い環境にすることが望ましいですが、これまでの動物園のゾウの運動場は狭いうえ、一日の大半を過ごす場所がコンクリート床の寝室であることなど、野生の環境とは大きく異なります。


野生のアジアゾウ

② 本来の生態を再現できる飼育方法
 野生のゾウは、メスを中心とした複数の家族で群れをつくり、オスは成長すると群れを出て、単独かオスだけのグループで生活します。野生のゾウの一日の行動の7割が、食事やえさを求める移動です。そのため、動物園ではオスとメスを分けて飼育し、えさを数回に分けて与えていますが、野生の状況と比べると刺激のない時間が多く、寝室も1頭ずつ分けられているため、運動場以外では群れで行動することはできません。

 ①と②で挙げた環境を用意するにあたり、ゾウほど課題が多い動物はいないかもしれません。第1に、大きな体と広い活動範囲を満たすための飼育スペースを確保する必要があります。アメリカの動物園水族館協会のゾウの飼育方針では、ゾウ1頭あたりに対する運動場の広さは500㎡以上が望ましいと記されています。
 第2に、ゾウ本来の生態を再現できる施設を用意しなければなりません。メスが夜間も群れで生活できる屋内施設や、オスを単独で飼育できる飼育舎や放飼場の整備です。

 残念ながら、上野動物園のゾウの飼育施設はこれらの課題をすべて解決しているわけではありません。都心にあり面積の限られた上野動物園において、理想とする飼育スペースを確保することや強固な構造が必要なゾウの飼育施設を新しく建て直すことは、容易ではありません。国内の他の動物園でも同じ課題に直面しており、そのため安易にゾウの飼育頭数を増やすことはできません。


多摩動物公園の新アジアゾウ飼育施設

 しかしながら近年、国内でも欧米のゾウの飼育施設を参考にした施設がつくられてきました。多摩動物公園に建設中のアジアゾウ飼育施設は、室内でも群れで生活できるスペースがあり、床には砂を敷くことで足への負担も軽減しています。また、現在使っている狭い施設であっても、飼育動物の環境を豊かにする「環境エンリッチメント」に積極的に取り組むことで、刺激のない時間を減らすことができます。

 今後は、できる限り生息地に近い環境を用意し、積極的に環境エンリッチメントに取り組むことが、ゾウを健康に飼育し続けるための重要な要因になるでしょう。


環境エンリッチメントのひとつとして設置されたフィーダー(えさを中に仕込んだ遊具)

 次に、もうひとつの取組み「繁殖して増やす」ことについて詳しくお伝えしますので、ぜひ明日公開予定の「8/12は「世界ゾウの日」! 動物園のゾウを守るために[その3]」をご覧ください。
知りたい! 野生のゾウをとりまく環境、課題
 WWFでは、ゾウをより深く知るための情報を多数用意しています。動物園スタッフもてこずる?激ムズゾウクイズや、野生ゾウをとらえた映像、ゾウを守るために知っておきたいことなど、もりだくさんです。ぜひ、こちらのスタッフブログをご覧ください!
特別動画
 世界ゾウの日に合わせて撮影した特別動画。ゾウ舎に入った飼育係の視点で超至近距離からゾウについて解説します。ぜひご覧ください!
【上野動物園】アジアゾウを超至近距離から解説してみた(東京ズーネットYouTubeチャンネル)


多摩動物公園の「世界ゾウの日」企画展
 多摩動物公園ではゾウの生態と野生の現状を伝えるパネル展示を開催中です!(2020年9月1日まで)

〔上野動物園東園飼育展示係 三塚修平〕

(2020年08月13日)
(2020年08月14日:[その3]のリンクを追加)


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