催し物
8/12は「世界ゾウの日」! 動物園のゾウを守るために[その3]
 └─ 2020/08/14

 前回の「その2」では、「海外から新しいゾウを導入する」取組みについてご紹介しました。最終回の今回は「繁殖して増やす」について考えてみましょう。2000年になるまで、国内の動物園でアジアゾウは繁殖していませんでした。ゾウの繁殖は何がそこまで難しいのでしょうか? その原因をひとつひとつ見てみましょう。

① 発情の見極めが難しい
 ゾウのメスの発情は3~4ヵ月に1回の頻度できます。動物園ではオスとメスを分けて飼育していますが、メスの発情のタイミングで同居する必要があります。
 発情のタイミングは、血中のホルモンから予測することができますが、ゾウの採血は容易ではありません。大きな事故につながる可能性もあるので、定期的に採血できるようにトレーニングする必要があります。また、予測が外れることもあるので、飼育係がゾウのようすを観察し、小さな変化を見逃さないことも大切です。


アティとウタイの交尾のようす

② ペアで飼育している動物園が少ない
 「その1」でお伝えしたとおり、国内で繁殖適齢期のオスとメスをいっしょに飼育している動物園は15園にすぎません。過去に各地の動物園でゾウの飼育を始めた当初は、オスよりも飼育しやすいメスを飼育する動物園が多く、これが今でもオスが少ない要因となっています。
 また、高齢化が進んだことで、1頭のみで飼育している動物園も増えてきました。さらには、長年繁殖せずにいた弊害として体に異常をきたし、20代のメスでも発情が来なくなる事例があります。これを防ぐために、なるべく若い年齢で繁殖を成功させる必要があります。

③ ゾウを移動することは難しい
 ペアで飼育している動物園でも、雌雄の相性が悪ければ繁殖はしません。その場合、他の動物園に動物を移動させて新しいペアを組むことで繁殖することがありますが、ゾウの場合はこれが容易ではありません。
 ゾウの移動には、とても大きな輸送箱やトラックが必要で、輸送費も高額になります。また、ゾウ自らが輸送箱に入るよう訓練するための長い準備期間が必要です。さらに、1頭のみ飼育している動物園では、人気動物のゾウがいなくなることに消極的になってしまうこともあります。


アジアゾウの搬出風景

 ここまで①~③の課題を説明してきましたが、私たちはこれらの課題を解決するための努力を続けてきました。そのためか2000年以降、それまでまったくなかったアジアゾウの繁殖が13件も見られるようになりました。その要因として、トレーニング技術の向上や若いオスとメスの同居を積極的におこなうようになったこと、困難を乗り越えてゾウの動物園間の移動が増えてきたことなどがあります。当園のウタイも現在妊娠中で、この秋に出産予定です。皆さんにゾウの赤ちゃんをお見せできるように、そして何よりもウタイが無事に出産できるように、しっかりと準備を進めていきます。

 将来、動物園からゾウがいなくなる日が来ないように、私たちは国内外の動物園と協力して、ゾウを飼育繁殖していくための努力を続けていきます。

 8月12日は「世界ゾウの日」ということで、動物園のゾウについて3回にわたり詳しく説明をしてきました。今後も都立動物園をはじめ、各地の動物園を応援していただけますと幸いです。
知りたい! 野生のゾウをとりまく環境、課題
 WWFでは、ゾウをより深く知るための情報を多数用意しています。動物園スタッフもてこずる?激ムズゾウクイズや、野生ゾウをとらえた映像、ゾウを守るために知っておきたいことなど、もりだくさんです。ぜひ、こちらのスタッフブログをご覧ください!
特別動画
 世界ゾウの日に合わせて撮影した特別動画。ゾウ舎に入った飼育係の視点で超至近距離からゾウについて解説します。ぜひご覧ください!
【上野動物園】アジアゾウを超至近距離から解説してみた(東京ズーネットYouTubeチャンネル)


多摩動物公園の「世界ゾウの日」企画展
 多摩動物公園ではゾウの生態と野生の現状を伝えるパネル展示を開催中です!(2020年9月1日まで)

〔上野動物園東園飼育展示係 三塚修平〕

(2020年08月14日)


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