多摩動物公園では現在、30頭前後のアカカンガルーをオスとメスに分けて展示しています。以前は全頭を同じ場所で飼育していましたが、2025年3月から雌雄を分けるかたちに変更しました。今回は、その背景や引っ越しのようすについてご紹介します。
これまでのアカカンガルーと引っ越しの計画
全頭を同じスペースで飼育していたときは、ケンカや衝突によるケガや病気が頻発していました。それは歴代の担当者たちの努力によって飼育環境が改善され、繁殖が順調に進んだ一方で、群れが過密になっていたことが要因のひとつでした。そこで、群れの個体数をコントロールするためにメスをほかの場所に移動させ、雌雄の飼育スペースを分けることにしました。
アカカンガルーは優れたジャンプ力をもち、跳躍距離は最長で約8m、高さは約3mにもおよびます。そのため引っ越し先には、脱走を防ぐ高い柵、雨風をしのげる寝室、そして十分な広さが必要です。また、ふたたび繁殖をする場合の移動の負担や、毎日の飼育管理のしやすさを考え、なるべく元の飼育スペースに近い場所を検討しました。いくつかの候補を検討した結果、今後は使用する予定がない、以前トナカイを飼育していた場所することにしました。
しかし、移動先が決まったからといって、すぐに引っ越しができるわけではありません。展示場は長年使われていなかったため、草刈りや樹木の剪定、脱走の恐れがある箇所の確認・整備など、少しずつ飼育環境を整えていきました。
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整備前 | 整備後 |
移動
移動先の整備を進めながら、アカカンガルーを移動させる方法についても慎重に検討しました。
アカカンガルーは繊細な気質であることに加え、「カンガルー病」の名前が付く歯牙疾患(歯や歯周組織、顎骨、口腔粘膜などに起こる病気)で知られ、傷からの感染が全身に広がることがみられる動物です。悪化すると命に関わることもあります。そのため、いかに無傷で移動させるか、また移動後に新しい環境にどう慣らすかが大きな課題でした。
そこで、移動の際は専用の輸送箱を使用し、その中へ1頭ずつ丁寧に追い込み、ケガをしないよう慎重に運びました。また、落ち着きのある性格の2頭を先に移動し、3日間ほど環境に慣らしたあとに残りの12頭を移動することで、群れ全体がパニックになることなく徐々に慣れるようくふうしました。
計画的に準備を進めた結果、メス14頭すべてがケガなく無事に移動を終えることができました。雌雄の飼育スペースを分けてから、今のところケンカや衝突による大きなケガは見られません。アカカンガルーたちも新しい環境に慣れたのか、のびのびと寝ている姿を目にします。最近は、母親のおなかの袋から顔を出している子も何頭か見られるようになりました。
オスとメスの展示場はすぐ近くにありますので、ぜひ大きさや体つきなどを見比べて観察してみてくださいね。

現在のメスの群れ
〔多摩動物公園南園飼育展示第2係 松本、
前・多摩動物公園南園飼育展示第2係/現・上野動物園東園飼育展示係 白尾〕
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