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アカカンガルー「マルオ」のカンガルー病治療
 └─2020/09/04

 現在、多摩動物公園では31頭のアカカンガルーを飼育しています。アカカンガルーは有袋類の中で体が一番大きい種です。跳躍によって短距離なら時速50km近いスピードを出すことができます。

 そんなアカカンガルーですが、注意しなければならない病気があります。その名も「カンガルー病」。名前のとおりカンガルーがかかるためこのように呼ばれています。口の中の傷に細菌が感染したり、歯肉炎が進行したりして化膿する病気です。頬が腫れたり、あるいは口を動かすときに歯ぎしりのような音が鳴ったりするのが初期症状です。ひどくなると顎の骨まで化膿し、えさが食べられなくなったり、全身に細菌が広がって死亡してしまったりすることもある危険な病気です。

 多摩動物公園では、パンや果実のように歯や歯茎に残りやすく糖分の高いえさをやめ、ペレットや青草、乾草など、葉や歯茎に残りにくく繊維質に富んだ高タンパクなえさに変更することによってカンガルー病の発症率を下げる試みや、食事をする寝室や放飼場を清潔に保つといった対策に取り組んでいます。しかし完全な予防は難しく、顔が腫れてしまう個体がときには現れます。

左頬が腫れてしまったマルオ
治療によって腫れがひいた

 先日、オスの「マルオ」の治療をおこないました。1か月前、口を動かすと歯ぎしりのような音が鳴る初期症状が見られました。このときは抗生剤を打っておさまったのですが、ふたたび左頬が腫れてしまいました。抗生剤をやめた直後の再発だったため、今回は動物病院で治療することになりました。

 麻酔をかけて眠っている間に車で動物病院に運ぶのですが、6歳のマルオは体が大きく、体重も60kg以上あるので、車まで運ぶのも一苦労でした……。幸い化膿まではしておらず、左上顎の臼歯1本がぐらつき、周囲の歯肉で炎症が起きている程度でした。問題の歯を取り除き、歯肉の消毒を行いました。治療直後は違和感があるのか、えさを食べなくなってしまいましたが、しばらくすると気にならなくなったのか、以前のようによく食べるようになりました。しばらく抗生剤の注射を続け、頬の腫れがひいて治療終了となりました。

 カンガルー病は悪化すると死亡につながる危険な病気ですが、早期に発見することができれば抗生剤の注射や抜歯などの治療で治すことができます。そのため、飼育担当者がわずかな変化を見逃さないように日々観察することが重要です。アカカンガルーとにらめっこしているスタッフがいたら、遊んでいるのではなく、それは健康チェックという大事な仕事をしているところなのです。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 斎藤尊〕

(2020年09月04日)



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