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フンからわかる動物の体のようす
 └─ 2025/05/09
 みなさんは「糞(フン)」と聞いて、どんなイメージをもちますか。臭い、汚いといった言葉を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

 しかし、フンには体の状態に関するさまざまな情報が含まれており、動物園で動物を管理するうえで重要なもののひとつです。見た目や量といった目に見える情報は動物の健康管理に重要ですし、フンの中に含まれる消化されたものや、体内で働くホルモンの働きを知るための化学物質などの情報も含め、飼育管理に大切です。

 野生生物保全センターでは、おもに都立動物園・水族園の飼育動物の「ホルモン」を分析しています。今回はフンの中に含まれる物質のうち、とくに繁殖に関わるホルモンの測定とその活用について紹介します。

 動物園では動物の発情のタイミングや妊娠の有無を正確に把握することで、希少種などの繁殖に取り組んでいます。しかし見た目や行動だけでは発情や妊娠がわかりにくい動物もいます。また、野生では通常時は単独で生活し、発情期のみオスとメスが接するような種もいるため、発情のタイミングを合わせて同居させないと危険な場合もあります。

 このような場面における発情などの見極めには、性ホルモンの測定が役立ちます。フン中には性ホルモンの代謝物(以下「ホルモン代謝物」)が含まれ、この物質の濃度や変化は体内のホルモン変化を間接的に示すことができます。このことを活用し、フンから動物の発情や妊娠などについての手がかりを得ることができるのです。

 フン中のホルモン代謝物を測定するためには、回収から多くの工程が必要です。まず飼育係が回収したフンはオーブンに入れ、1日乾燥させます。


オーブンで乾燥したフン

 次に乾燥させたフンを粉状にして正確に計量します。それをアルコールに浸し、フンに含まれるホルモン代謝物がアルコールに溶けだすのを一晩かけて待ちます。


粉状にしたフンをアルコールに浸し、ホルモン代謝物を抽出する

 最後に、EIA法(酵素免疫測定法)を用いて、ホルモン代謝物の量を測定します。この作業は2日ほどの日数を要します。ほかにも測定に必要な試薬などの準備があり、全工程は約2週間となります。

 このようにして得られたデータは貴重ですが、結果から発情のようすがわかるのはフンが回収できた期間のみです。体の中での代謝を経た物質の測定のため、リアルタイムで動物の発情などの状態を示してはいません。そのため、継続的にフン中のホルモン代謝物を測定して変化の傾向を把握し、さらに飼育記録から読み取れる行動などのデータと結びつけて考察することが重要です。

 ホルモンの測定には時間や労力がかかりますが、測定結果を活用し、繁殖に成功した例もあります。ときには園内で動物を見るだけでなく、地面に落ちているフンにも注目してみてください。

〔野生生物保全センター研究係 森岡〕

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