ニュース
家畜馬の新たな挑戦
 └─ 2024/12/13
 この秋、多摩動物公園の家畜馬「仁太郎」(オス)が新たな挑戦をしました。

 仁太郎は北海道和種という品種の在来馬です。北海道和種馬はもともと、「駄載」(ださい)で使われていた役用馬です。駄載は荷物を馬の背中に載せて運ぶ仕事を指す言葉です。北海道の開拓時代には電信柱などの荷物を運ぶことで貢献しました。現在では自動車などの普及により、馬を運搬目的で使うことがほぼ無くなり、馬に荷物を載せる技術をもつヒトも数少なくなりました。

 多摩動物公園では、1年に1回、北海道のトレーナーから「ホースマンシップトレーニング」(以下、トレーニング)の指導を受けています。今年の研修では、はじめて駄載の技術も学ぶ機会をもちました。

 はじめに、駄載の歴史や使われている道具、荷物を積む方法などを学びました。今回は馬の背中の両側に1個ずつ荷物を載せる「1個積み」という方法を教わりました。本来は、使用する道具も乗馬用の鞍とは別の駄載専用の「だんづけ鞍」(北海道で使用されている荷駄鞍)という鞍を用いるそうです。

 このだんづけ鞍は荷物が直接馬の体にあたって擦れてけがをすることを防ぐ構造をしているなど、馬にも配慮したくふうがされています。当時は、1人が先頭に立って駄載した4頭の馬を一列に引き連れて山道などを移動していたそうです。馬の背には、特有の結び方により1本の縄だけでだんづけ鞍に荷物をとめていました。

 このようなさまざまな説明を受けているあいだ、仁太郎は飼育担当者の近くにいて、いっしょに話を聞いているかのように静止していました。これは、仁太郎が私たち飼育担当者のことを群れのなかまと思っており、私たちと同じ行動をしようとするためです。

 次に載せる荷物が無害な物であると仁太郎に認識させました。具体的には荷物に見立てたえさ運搬用のコンテナを馬の背中とお腹に擦りつけたり、コンテナを足元から一気に持ち上げ、コンテナを載せる箇所に軽くあてたりして、これらに慣らしました。

 私たちは、ふだんから見慣れているコンテナでも初めて体に擦りつけられたら、大人しい仁太郎も驚いた表情をすると予想しましたが、たまたま背中の痒いところをコンテナで擦っていたらしく、仁太郎は驚くどころか、逆に気持ちよさそうな表情になり、見ている私たちも思わず笑ってしまいました。


コンテナに慣れさせているようす

 その後、今回はだんづけ鞍の準備が無いため、手元にあった乗馬用の鞍を仁太郎につけて縄で結びながら実際にコンテナを載せていきました。そのあいだも仁太郎もとても落ち着いており、最後まで柱に仁太郎をつなぐことなく、コンテナを積むことができました。駄載をしながらの引き馬もいつもどおりのようすで難なくクリアしました。

 トレーニングを受けていない馬では止まっていられず、暴れてしまったり、逃げようとしてパニックになったりすることもあり、どの馬でも駄載ができるわけではありません。駄載ができる馬は、ヒトを信頼していることが大前提です。


荷物を載せた仁太郎

 ここまでスムーズに駄載ができたことは、多摩動物公園で十数年間積み上げてきた仁太郎とのトレーニングによって、仁太郎に安心感をもたせて飼育担当者との信頼関係が構築されてきたことの証しだと思います。

 今回、私たちが北海道和種馬の歴史的背景にふれ、駄載の技術を受け継ぐことができれば、多くの方々に北海道和種の本来の働きや能力を実際にお伝えすることできると考えています。このような取組みを進めるにあたっては、動物への負担も考慮する必要があります。仁太郎の能力と荷物の重さなどの負担を慎重に検討し、実施していきます。

〔多摩動物公園南園飼育展示第1係 伊藤〕

◎関連記事
「軽い」桃太郎と「重い」仁太郎、2頭の道産子(2020年07月24日)
家畜馬「仁太郎」の最近のようす(2023年06月02日)

(2024年12月13日)



ページトップへ