黄色の繭をつくるカイコを選抜する試み

2026年7月3日

多摩動物公園の昆虫生態園にある「里山のいきもの」コーナーでは、カイコを飼育展示しています。

絹糸をとる「家畜」であるカイコには、1つの遺伝子の突然変異により繭色が変化した個体に由来する、複数の品種が知られています。2024年に入手した黄色の繭をつくる品種の幼虫を育成し、羽化後にそれらを繁殖させたところ、子の世代には黄色の繭だけではなく、黄色と白色の2種類の繭が出現しました。

カイコ幼虫の孵化
カイコ幼虫の孵化

入手したカイコは、黄色い繭をつくる品種と、白色の繭をつくる品種をかけあわせた「雑種」だったと思われます。このような雑種を生産する理由の一つとして、「雑種強勢」の利用があげられます。

雑種強勢とは、異なる品種をかけあわせることにより、両親のもつ形質よりも優れた形質が子にあらわれる事象です。強健性の獲得や収量の増加などを図るため、家畜や農作物の品種改良などに広く利用されています。たしかに入手した品種の幼虫は体が大きく、吐糸してつくった繭も今まで飼育していた別の品種よりあきらかに大きいものでした。

今回は、黄色の繭をつくる親から、黄色と白色の2種類の繭をつくる複数の子が生まれました。そこで、繭色に関するある遺伝子について、顕性(優性)の黄色「A」と潜性(劣性)の白「a」の2種類を仮定してみました。さらに、中学校3年生の理科で習った「メンデルの遺伝の法則」のうち、「分離の法則」をあてはめてみると、黄色の繭のみをつくった親の遺伝子型はAa、生まれた子のうち黄色の繭をつくった個体の遺伝子型とその出現割合はAAが25%でAaが50%、白色の繭をつくった個体の遺伝子型と出現割合はaaで25%であることが期待できます。

このように遺伝子型を仮定したペアリングの説明は一見複雑ですが、ある形質をもつ子が出現する割合を予測できるのでペアリングの計画を立てるのに役立ちます。とはいえ、均一な形質をもつ品種のほうが、計画的な展示にとって都合がよいのは確かです。そこで、今後も黄色の繭をつくるカイコの飼育展示を安定して続けるために、世代を重ねながら均一な遺伝子型のカイコを選抜する試みを開始しました。

カイコ幼虫と人工飼料
カイコ幼虫と人工飼料

今回の試みでは、まず黄色の繭をつくった子の世代から任意に選んだ雌雄1匹ずつを個別にペアリングして合計14ペアから採卵し、孫の世代を14グループ得ました。孫の世代では、これらのグループごとに幼虫を育成し、黄色の繭のみが出現したグループを残して、そのグループ内で再度個別ペアリングをおこない、ひ孫の世代を得ました。

また、孫の世代では、「営繭」(えいけん=繭をつくること)時点で白色の繭が出現した場合は、白色の繭をつくった個体だけを選んでペアリングする新たなグループもつくりました。この白色の繭をつくる個体からなるグループ(遺伝子型はaa)は、展示するのはもちろん、のちの検定交雑(仮定した遺伝子型を確認するペアリング手法)にも使用したいと考えています。

2026年5月現在、白色の繭がまだ出現していないグループは、ついに1グループのみとなりました。この玄孫の世代の幼虫を育成中ですが、果たして目標としていた黄色の繭だけの純粋なグループになるでしょうか……。

また、グループ内の限られた個体どうしを選んで交配を繰り返しているので、卵の孵化率や幼虫の成長が低下するなどの影響が出ないかどうかにも注視しています。

人と関わりの深いカイコ、その姿かたちだけでなく遺伝学を考えるきっかけとしても、ぜひその性質と魅力をみなさんに知っていただきたいと思います。

カイコ繭(黄色)の中の蛹
カイコ繭(黄色)の中の蛹

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 吉川〕

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