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「タネまき」をするホンドテン
 └─ 2024/03/27
 春がやってきました。これからさまざまな植物が私たちの目を楽しませてくれることでしょう。植物は動物のように足を使ってトコトコとどこかへ移動することはありませんが、植物の一生のうち、根を張る前のタネの時期には新しい場所へ移動することができます。その手段として、風や水の流れに乗るなどのさまざまな方法が知られています。

 なかには、おいしい果実を実らせて動物にタネごと食べてもらい、その動物の移動先でタネが入ったフンを排泄してもらうことで、タネを移動させる植物がいます。この方法を「被食散布(ひしょくさんぷ)」と呼びます。

 動物にとって、植物は甘くておいしいえさを提供してくれる存在である一方で、植物にとっては、動物は子孫をあちこちに運んでくれる存在なのですね。お互いにとても大切な関係にあるのです。

ホンドテンにキウイを与えてみると……


ホンドテン

 ホンドテンは山に実るさまざまな果実を食べ、被食散布に貢献しています。そのなかのひとつに「サルナシ」という植物があります。このサルナシ、実はスーパーでも見かける「キウイ」に近縁な植物です。秋になると長さ1.5~2cmほどの小さな緑色の果実をつけ、野生のテンもよく食べることが知られています。

 そこで、井の頭自然文化園のテン3頭にキウイを与えてみました。


ホンドテンに与えたキウイ

 ふだんのえさはリンゴやみかん、バナナなどを与えているため、キウイを目の前にするのは初めてだったはずですが、どのテンもおいしそうにぺろりと完食しました。

 そしてその翌日には、展示場のあちこちにキウイのタネがたくさん入ったフンが落ちていました。きっと今日も日本の森のどこかで、こうしてホンドテンが「タネまき」をしているのですね。

キウイのタネが入ったテンのフン
赤で示したものがキウイのタネ


サルナシの発芽を知らず知らずのうちに助けているホンドテン

 最近の研究によると、テンが果物を食べることで、タネは移動できるだけでなく、発芽しやすい状態にもなるようです。この研究ではサルナシのタネを使い、「①動物園のホンドテンのフンから取り出したタネ」「②人が手作業で果肉を取り除いたタネ」「③果肉がついたままのタネ」をそれぞれ埋めて、発芽するかどうかを確かめる実験をしました。

 結果を比べてみると、①のフンから取り出したタネはほかのタネに比べて高い確率で発芽しました。さらに、②の果肉のないタネの方が③の果肉のついたままのタネよりも高い確率で発芽しました。

 これらの結果から、ホンドテンがサルナシを食べてタネの表面から果肉が取り除かれることで、発芽しやすくなっていると考えられたのです。過去には果物の果肉に発芽を抑える物質が含まれる例も報告されており、サルナシの果肉にもそのような物質が含まれているのかもしれません。

 実はさらに、サルナシは森と開けた場所の境界である「林縁」でよく見られる植物ですが、なわばりを示すために林縁部などの開けた場所で好んでフンをするテンの習性が、結果としてサルナシの生育を助けている可能性もあるようです。


ホンドテンは森をつくっている!?

 この研究以外にも、ホンドテンがさまざまなタネを運んでいるという報告があり、種子散布者としての重要性が明らかになってきています。ホンドテンの、ごくありふれた「食べる」「移動する」「排泄する」といった生きるための営みが、知らず知らずのうちに森をつくることに貢献しているようです。

 実は私たちがまだ知らないだけで、自然の中にはこうした生きものたちの思いがけないつながりが、まだまだあちこちに隠れているのかもしれません。

参考文献:Tsuji, Y., Konta, T., Akbar, M. A., and Hayashida, M. 2020. Effects of Japanese marten (Martes melampus) gut passage on germination of Actinidia arguta (Actinidiaceae): Implications for seed dispersal. Acta oecologica, 105, 103578.

〔井の頭自然文化園飼育展示係 大河原陽子〕

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