暖かい日も増え、そろそろ衣替えを検討する季節になってきました。実は私たち人間だけでなく、ほかの哺乳類にも「衣替え」があります。哺乳類の毛が抜けて新しい毛になることを一般的に「換毛」と呼びますが、季節がある地域にくらす哺乳類のなかには、季節の変化に応じて冬毛から夏毛へ、夏毛から冬毛へと一気に換毛するものが多くいるのです。まさに私たちと同じ「衣替え」ですね。なかでもひときわ鮮やかに大変身するのが、ホンドテンです。
ホンドテンは本州、四国、九州に自然分布します。地域や個体によってその毛色は少しずつ違うものの、一般的に夏には、頭が黒く、体はオレンジ~茶色っぽい暗い色、冬には、頭が白く、体は明るい黄色になります。
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夏毛のホンドテン | 冬毛のホンドテン |
図鑑で見るホンドテンは、換毛が完全に終了した美しいすがたで描かれます。一方、動物園では、その変化の過程を追いかけて観察することもできます。日々の変化を継続して発信することで、それまでは気づかなかった生き物の不思議を発見するきっかけになるのではないかと考え、2022年の春から、
ツイッターで「
#テンの衣替え」の発信を始めました。
さて、勇んでスタートしたのはいいものの、新年度の4月にはすでに冬毛から夏毛への換毛が始まっていたため、急いで撮影に取りかかりました。さらに、2週間おきにツイートすることを想定していたのですが、実際に撮影してみると、5月下旬から6月中旬にかけての変化のスピードが想像以上に早く、変化のようすをつぶさに追いかけることができませんでした。

2週間であっという間に変身
この反省を踏まえ、秋には夏毛から冬毛への大変身のようすをしっかり追いかけられるよう、撮影頻度をあげて1週間~10日おきに発信することとしました。すると、頭、顔、全身、目の周りなどの細かなところ……といった順に換毛が進んでいくようすをとらえることができました。

色や毛量が少しずつ変化するようす
ホンドテンはいったいどうやって季節を感じ、換毛しているのでしょうか? 飼育下でおこなわれた最近の研究によると、気温の変化があるにもかかわらず、明暗の周期が一定の環境では換毛が起こらない個体がいた一方で、太陽の光があたる自然条件下に移すと換毛が見られるようになったというデータがあります。どうやら、温度ではなく日長の変化を通して季節を感じ、換毛しているようです。
当園のホンドテンは、また今年も鮮やかな大変身を披露してくれるはず。来園の際には、ぜひ「
#テンの衣替え」のついたツイートの写真とも見比べながら、「今日はどんなようすかな? これからどんな姿になっていくのかな?」と注目してみてください。
参考文献:Funakoshi, K., Nagasato, A., Takenouchi, S., Kannonji, R., Kikusui, M., Uchihara, A., and Tamai, K. 2017. Annual molting cycle and photoperiods that affect seasonal coat color changes in the Japanese marten (Martes melampus). Mammal study, 42: 1-10.
〔井の頭自然文化園飼育展示係 大河原陽子〕
(2023年03月09日)