日常的に動物の体重を測ると、短期的な変化を把握して健康管理の参考となるだけでなく、治療のための麻酔薬や投薬の量を決める際の重要なデータになります。獣医療が進歩し、動物園の高齢個体は今後さらに増えていくため、加齢による病気が増えてくることを考慮すると、正確な体重を把握しておくことがより重要となってきます。
多摩動物公園では、1981年にモウコノウマの飼育を開始して以来、体重測定はおもに麻酔や搬出のときにおこなわれていました。そのため、現在飼育している10頭のうち、体重の記録があるのは2頭だけでした。
そこで、全頭の体重を定期的に測る取り組みを始めました。おとなで300㎏以上となるモウコノウマの体重に耐えられるよう、体重計にはトラックの積載量を計測するロードメーターを使用しました。
モウコノウマは、パドック(小運動場)から放飼場へ移動するとき、あいだを仕切る扉の手前に敷いたゴムマットの上を普段から通過しています。体重計に乗ってもらうために特別な行動をさせるのではなく、これまでの習慣を活かし、ゴムマットの下に体重計を設置することにしました。最終的には、下から「合板・体重計・合板・ゴムマット」の順で設置し、通過させることを目標にしました。不安定な足場や合板のにおい、音に警戒して乗らなくなってしまわないよう、段階的に慣らしていきました。測定の手順は次のとおりです。
- 扉を閉めた状態でゴムマット上に1頭で静止させる
- 扉を開けて1頭を放飼場へ放す
- 以上を繰り返す
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ロードメーターを設置したようす | ロードメーターの上に合板とゴムマットを設置したようす |
全頭が体重計付きのゴムマットを問題なく通過できるようになったタイミングで、1回目の体重測定を試みました。
ふだんは、扉が開いた状態で複数頭をいっせいに出していたため、閉まった状態の扉の前で静止することにウマが慣れておらず、体重計に近づかなくなりました。そこで、体重計に慣らす作業とともに、パドックからウマを出すときに扉の前で1頭ずつ待機するのを習慣づけることにしました。約3週間の訓練の結果、2回目は7頭中5頭がマットの上で数秒間静止できるようになりました。
モウコノウマの体重測定
この取り組みの中で、予想外の反応がみられました。人への警戒心が普段強いのは年長個体で、年少個体は比較的薄い傾向があるため、年少個体の方が何も気にせず体重計に乗ると予想していました。しかし体重計に乗るのも、1頭ずつ出舎する状況に慣れるのにも時間がかかったのは年少個体の方でした。性格による違いもあるため一概には言えませんが、まわりの環境や習慣に対する警戒心は、人に対するものとは異なる傾向があるのかも知れません。
体重測定を通じて群れ飼育における個体管理の難しさや野生馬の警戒心の強さを再認識するとともに、今までにみられなかった性格などに気づきました。今回の経験を活かし、全頭の体重測定が安定しておこなえるようになるまで取り組みを継続していきます。
〔多摩動物公園南園飼育展示係 伊藤〕
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