葛西臨海水族園では「世界の海」エリアの「チリ沿岸」水槽で、世界最大級のフジツボのなかま「ピコロコ」を展示しています。
フジツボというと、体が「かたい殻」に覆われていて、波打ち際の岩などにくっついている姿を思い浮かべると思います。このような見た目から、貝のなかまだと思われることが多い生き物ですが、エビやカニと同じ甲殻類です。
エビやカニが脱皮して成長することは、きっとみなさんもご存じでしょう。ピコロコも、殻の中の体はエビのようなつくりをしていて、脱皮をして成長していきます。
みなさんは、ピコロコの「かたい殻」がどのように成長しているのか疑問に思いませんか? 私はずっと不思議に思っていました。

写真左:2つのピコロコを持ち上げたところ。左の殻は成長中、右の殻にはすでにピコロコはいない。 写真右:成長箇所(赤線)
左の写真をご覧ください。ピコロコの殻が二つ、岩にくっついています。殻を上に持ち上げてみたところです。左の殻は岩に接するあたりに白色やピンク色の層が見えますが、これが新しく形成された殻です。右の殻の中にはすでにピコロコはおらず、殻のあらたな形成はもう見られません。比較すると一目瞭然ですね。
写真を拡大し、成長箇所を示しました(右)。ピコロコの殻はてっぺんから見ると放射状に複数のパーツに分かれており、その複数のパーツが互いに接する部分も成長します。見た目ではわかりづらいのですが、山形(∧)の赤線で示した部分がその成長箇所です。ピコロコは、これらの箇所に殻のもととなる成分を分泌します。その結果、四角で囲った白色とピンク色の部分が成長して高さを増し、放射状に分かれたパーツがたがいに接する部分が成長することで直径も大きくなるのです。
下の写真は来園者側から撮影したようすです。赤い楕円で囲った箇所に白い部分が見えます。ここが殻の成長箇所です。

観覧通路から見たようす。赤枠内の白い部分が新しく形成された殻
写真では、ピコロコがえさを捕るために伸ばす「蔓脚」(まんきゃく)が見えています。蔓脚を出すこの開口部は最初にできた箇所なので、殻が薄く、激しい波などに削られて徐々に広がっていくようです。
葛西臨海水族園では長期飼育が可能になってきたピコロコですが、殻の成長まで見られるようになるとは思ってもみなかったため、発見したときはとても興奮しました。
多くの個体で殻の成長が見られたピコロコたち。今度「チリ沿岸」水槽をご覧になる際は、動いている蔓脚だけでなく、殻の下の方にも目を向けてみてください。きっと成長の証が見られると思います。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 川上七海〕
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