葛西臨海水族園の「世界の海」エリア「チリ沿岸」水槽で、2018年3月に大規模な改修工事をおこないました。生物を展示している水槽側はあまり変わりませんが、水槽の裏側では大きな変化がありました。
この水槽の主役はピコロコという大きなフジツボのなかまです。大きさは違いますが、体の構造は一般的なフジツボと同じです。殻の上部に開いた穴から熊手のような蔓脚(まんきゃく)を出して、水中にただよっているプランクトンを捕まえて食べます。
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展示水槽のピコロコ | 蔓脚を出すようす |
このプランクトンを食べるという習性のため、フジツボのなかまは飼育が難しいのです。これまでえさの種類を検討し、入れる頻度や量を調整して工夫してきましたが、ピコロコにえさを十分与えるのは難しく、2年以上飼育できる個体はわずかでした。その理由は水槽の仕組みにあります。
水槽には飼育水をきれいにするための濾過槽があり、水槽内の水はすべてここを通って循環しています。濾過槽は水質維持のために欠かせないのです。ところが、展示水槽のピコロコにえさを与えると、えさごと飼育水が濾過槽に流れ、こしとられてしまうのです。
そこで今回、給餌しているあいだ濾過槽を通さない循環に切り替え、さらに水槽内でさまざまな水流が起せるような工事をおこないました。時間によっては水槽が濁って見えることがあるかもしれませんが、この濁りはピコロコに食べさせたいプランクトンによるものです。以前よりもえさが長く漂うようになったため、ピコロコが蔓脚を出してプランクトンを食べようとしているようすがしばしば見られるようになりました。ぜひじっくり観察してみてください。
今後もピコロコの長期飼育を目指して試行を重ね、将来的にはピコロコだけではなく、チリ沿岸に生息するプランクトン食性の生物を展示しようと思っています。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 村松茉由子〕
(2018年05月10日)