ニュース
アメケンの深海調査航海リポート、その四
 └─葛西  2008/07/25

◎クジラが降ってくる!?

 さて、アメケンこと雨宮健太郎がお届けするこのリポートも4回目を迎えました。今回は、この航海のもう一つの、といいますか、真の目的についてお話しします。

 じつはこの航海の真の目的は、「鯨骨生物群集」という深海の生物群の研究だったのです。この鯨骨生物群集を研究している海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者の方が声をかけてくださったおかげで、私たちはこの航海に同行することができたのです。それでは鯨骨生物群集について簡単に紹介しましょう。

 海でクジラが死ぬと、しばらく海面を漂い、その後、海底へと沈んでいきます。深海では、生物が生きていくために必要な有機物は、浅い海から沈んでくる生き物の死体などに頼っています。ですから、クジラの死体が沈んでくるのは、大きなごちそうが降ってきたようなものですね。

 海底に沈んだクジラの死体には、まず魚やエビ、カニ、そしてクモヒトデなどが肉の部分を食べに集まってきます。そして、肉は食べられ、きれいに骨だけが残ります。じつはクジラの骨には多量の油分が含まれていて、この油分や、それが変化してできる硫化物などが生き物たちに利用されます。

 ですから、クジラの死体が骨だけになると、肉がついていたときとは違った生き物たちが現れます。その中には、二枚貝のなかまのヒラノマクラや環形動物のなかまのホネクイハナムシなど、鯨骨に特異的に生息する生物などがすむようになります。クジラの骨からの産物を利用する、これらの生物たちによって形成される生物集団を鯨骨生物群集といいます。

 でも、ここで疑問がわいてきます。広~い海では、クジラの死体はいつどこに沈むかはわかりません。また、熱水域も同じ場所に永久に噴出しているわけではなく、数十年から長くても百年といわれています。

 では、彼らはいったいどこから、どのようにしてやってくるのでしょうか?そして、鯨骨や熱水噴出域に特異的に生息する生物群はどのように形成されるのでしょうか? その答はまだわかっていません。

 今回の航海では、そんな謎を解き明かすために、クジラの骨や丸太などを海底に沈めたのです(写真)。今後、数年ごとにこの骨などを回収し、利用する生物などを調査する予定です。これからが楽しみです。

 今回はちょっと固い話になってしまったアメケンの体験レポート、これで最終回の予定でしたが、急遽、次週に番外編をお届けします。お楽しみに!

リポート、その1
リポート、その2
リポート、その3

※写真提供:独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)

〔葛西臨海水族園飼育展示係 雨宮健太郎〕

(2008年07月25日)



ページトップへ