路地に生える草花など、身近なものからふと季節の変化を感じると、何となくうれしい気分になるものです。先日、葛西臨海水族園「渚の生物」エリアで、夏の到来を感じさせる生物の出現に「そろそろ海のシーズンだよねぇ」と心を弾ませてしまいました。その生物こそ、
昨年(2007年)7月の記事でも紹介したフナムシです。
「渚の生物」エリアには、関東近辺の海岸で採集したフナムシが入れられていて、飼育係が餌を与えるなどの世話をすることなく、ずいぶんと前から住みついています。寒い時期には水ぎわの石の下などでじっとしていて、暖かくなるとワサワサと活動を始めます。
水族園のすぐ目の前の海である葛西臨海公園の干潟にもフナムシはたくさんいますが、磯などで私たちがよく見かけるフナムシとは別種の「キタフナムシ」であることが、近年報告されています。
以前、キタフナムシは北海道だけに分布していると考えられていましたが、今では、北海道から東北地方に分布し、それより南の地域では西日本まで断続的に分布していることがわかっています。そこで、「渚の生物」エリアのフナムシを10匹ほど捕まえて種類を調べてみました。
2種の見分け方は、第2触角と尾肢(びし)の長さがポイントとなります。第2触角とは頭から長く伸びる「むち状」のもので、尾肢とは第2触角とは逆に、体の一番うしろから伸びている器官です。キタフナムシはフナムシよりも第2触角と尾肢が短いため、並べて見比べると区別ができます。
調査の結果、調べたフナムシはすべてキタフナムシでした。「渚の生物」エリアに、いつごろ、どこで採集したフナムシ類がどれくらい入れられたのか記録が残っていないのは残念ですが、フナムシ類は移動能力が低い生物で、生息地ごとに独自の遺伝的な特徴をもっているといわれています。葛西臨海水族園のフナムシ類の遺伝子を調べることで、そのルーツを推測することができるかもしれませんね。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 金原功〕
(2008年05月09日)