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産まれた子どもを食べちゃう(!?)魚
 └─葛西  2008/02/22

 2008年2月なかばのある日のこと。私は、南極産生物の展示水槽に張りついて、ある魚をじっと見つめていました。私のお目当ては、南極にすむ、カジカによく似た魚、アンタークティックスパイニープランダーフィッシュ。プランダーフィッシュのいる南極の水槽は、動きがあってにぎやかなマグロやサンゴ礁の水槽にくらべると、一見動きが少なく、静かにみえる水槽です。

 ところが2月に入り、ちょっとようすが変わりました。水槽の中で、4か月間の沈黙を破り、あることが始まったのです。この瞬間を見逃すまいと、私はプランダーフィッシュを見つめていたのでした。

 話は、昨年(2007年)の11月にさかのぼります。このころ、プランダーフィッシュは石の上にたくさんの卵を産みました。卵を産んだその日から、プランダーフィッシュは昼も夜も休みなく、毎日毎日、卵を守り続けました。守り続けること約4か月間、2月もなかばを過ぎたころ、とうとう孵化が始まったのです。(プランダーフィッシュが卵の世話をするようすは、2007年11月30日のニュース「困ったときはおたがいさま?」をごらんください。)

 私が待っていたのは、まさにこの瞬間でした。卵から子どもが産まれると、親はちょっと驚く行動を見せます。なんと、親はすかさず子どもを「パクッ」と口にくわえるのです! 長い間、卵を守り続けてお腹をすかせた親が、つい子どもを食べてしまったのでしょうか? いえいえ、そうではありません。続きを見てみましょう。

 子どもをくわえたまま泳ぎ始めたプランダーフィッシュは、巣から離れた場所で子どもを「ペッ」と吐き出します。そして、何ごともなかったかのように、また巣に戻ってきます。一体、プランダーフィッシュの親は何をしているのでしょうか? まだ泳ぎのおぼつかない子どもの面倒をみているのでしょうか? 残念ながら、この行動の意味はまだよくわかっていません。今後の研究が待たれます。

 ふだんは水底でじっとしてほとんど動かないように見えるプランダーフィッシュ。でも、子どもの世話をしている彼らは、活発でパワフルです。今なら、水槽をただよう産まれたばかりの子どもの姿も見られます。彼らの奮闘ぶりを見るなら今がチャンス。子どもを「パクッ」とくわえて「ペッ」吐き出すすがたは、一見の価値ありです!

写真上:卵を守る親
写真中:水槽をただよう子ども
写真下:子どもを顕微鏡でみてみると……

〔葛西臨海水族園教育普及係 齊當史恵〕

(2008年02月22日)



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