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困ったときはおたがいさま?
 アンタークティックスパイニープランダーフィッシュ
 └─葛西  2007/11/30

 ある水槽の前を何気なく通り過ぎようとしたときのことです。水槽内の石の下から出てきた魚が、近づいてきたなかまに猛烈に体当たり! もちろん当たられた側はたまらず水槽の奥に退散。

 じつはこれ、葛西臨海水族園の No.27「南極海」という水槽に展示している「アンタークティック スパイニー プランダーフィッシュ(以下プランダーフィッシュ)」という魚の話です。今、このプランダーフィッシュが卵の世話の真っ最中です。

 この魚は直径2~3ミリの白い卵を数百個、石の上に産みつけます。そして産卵したメスはふつう3~4か月もの長いあいだ、卵の世話をします。卵の上のゴミを口で掃除したり、胸びれをさかんに動かして卵に新鮮な海水を送ったりします。

 さらに、近づいてきた外敵や、ときには同じ種類のなかまさえ威嚇し、体当たりして追っぱらい、子どもを守ります。まさにこの体当たりが最初に紹介した行動であり、子を想う親の捨て身の行動なのでしょう。このような卵の世話がないと、プランダーフィッシュの卵は外敵に食べられてしまったり、発生が止まったりして、孵化までたどり着けないようです。

 ところが、自然界では何が起こるかわかりません。不幸にも卵の世話をしているメスが病気で死んだり、アザラシや大型魚類等の外敵に襲われたりして、いなくなってしまうこともあるでしょう。こうなると、放置された卵の運命はいったりどうなるのでしょうか?

 ご安心ください。プランダーフィッシュは、そんなとき、オスが代わりに卵の世話をすることが知られているのです。しかも、そのオスは、守っている卵とはまったく血のつながりのないオスだというのです。一般に生き物の世界では、血のつながりのない他人の子どものために労力を使うような、利他的な行動は進化しないとされているのですが……。

 ではなぜ、プランダーフィッシュは自分とまったく血のつながりのない卵の世話をするのでしょうか? じつは、その答はまだわかっていません。もしかしたら、かれらのふるさとである南極の過酷な環境となにか関係があるのかもしれません。

 葛西臨海水族園でも、このプランダーフィッシュを飼育し、観察する中で、この不思議な行動に関するヒントを見つけられればと思っています。プランダーフィッシュの世界でも、「困ったときはおたがいさま」なのでしょうか?

〔葛西臨海水族園飼育展示係 田辺信吾〕

(2007年11月30日)



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