多摩動物公園のなかでも有数の広さを誇る「アジアゾウのすむ谷」は、その分ふだん来園者の方が目にすることのない管理エリアも広大です。今回は飼育係しか見られない「裏側の世界」をご紹介します。
乾草倉庫
はじめに紹介するのは「乾草倉庫」です。乾草倉庫にはおもにチモシー、スーダングラス、稲ワラといった3種類のイネ科の乾草を保管しています。

乾草倉庫内のスーダングラス
アジアゾウは草食性で、野生では草や果実、木の枝葉・樹皮などを食べます。飼育下でこうしたえさを完全に再現するのは難しいため、多くの動物園ではおもに乾草を給餌しています。乾草は繊維質が豊富で、草食動物の健康維持において重要です。
多摩動物公園で飼育している、「アマラ」(メス、20歳)と「ヴィドゥラ」(オス、17歳)の2頭には、あわせて1日あたり約160kgのえさを与えていますが、そのうち約半分を乾草が占めています。このように当園のアジアゾウにとっても乾草は重要なえさであることから、天候不良や災害などの異常事態で搬入されなかった場合に備え、2週間分の乾草を余分にストックとして保管しています。
このえさを保管する場所だけを見ても「アジアゾウのすむ谷」のスケールの大きさが伝わるのではないでしょうか。
油圧扉
続いては「油圧扉」です。「アジアゾウのすむ谷」にあるゾウの通路に設置された扉の多くは油圧の力で開閉させます。飼育係が離れたところから操作盤を使って扉を動かしています。扉1枚をただ開閉させているだけに見えますが、とても重要な作業です。
ゾウがいる場所で大きく重い扉を動かす際には、扉に鼻や尾などが挟まりゾウにけがを負わせてしまう可能性があるため、細心の注意を払わなければなりません。そのため、扉の開閉は飼育係がゾウを扉と離れた位置へ誘導してとどまらせ、安全を確保したうえでおこないます。
「アジアゾウのすむ谷」で大きな扉が動いているのを見かけたら、どこにゾウはいるのかな、どこで扉を動かしているのかな、など周りをよく見てみるのもおもしろいかもしれません。
油圧扉可動時のようす
詰所
最後に紹介させていただくのは「詰所」です。こちらの詰所と呼ばれる場所では、その日出勤のアジアゾウ担当が毎朝集まり、その日の作業の流れを確認したりミーティングをおこなったりします。
写真上部にあるモニターには常にゾウが観察できるように、リアルタイムで屋外放飼場や屋内放飼場の映像が映し出されています。この映像を見ればゾウがどこで、何をしているかをすぐに確認することができます。

詰所
また映像は記録されており、夜間、飼育係が帰ったあとのゾウの行動を翌日確認することができます。これによって夜間異常がなかったかを確認するのも私たちの日々の仕事です。
このようにふだん来園者の方の目にふれない裏側の世界にはさまざまなものが隠れています。多摩動物公園にご来園の際はそんなところも想像しながらお楽しみください。
〔多摩動物公園南園飼育展示係 髙橋〕
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