春を迎え、上野動物園の正門近くの「日本の鳥」湿原エリアにいるシジュウカラガン7羽も繁殖の季節を迎えました。現在3つの「ペア」が見られます。といっても、雌雄のつがいは2つだけで、あと一つはオス1羽とメス2羽から成る変わった組み合わせです。
雌雄の組み合わせは毎年同じです。ユキヤナギなどの植え込みに巣を作り、巣のまわりをなわばりとして警戒します。他のペアが近づいてくると、雌雄とも大きな声を上げて威嚇します。
繁殖期でなければ7羽でいっしょに行動するのに、3月に入ってペアを作ると、おたがいに威嚇したり、侵入者を追い払ったり、激しい行動が目につくようになるのです。シジュウカラガンに対してだけでなく、湿原エリアにいるタンチョウや野生のカルガモに対しても威嚇の鳴き声を立てるため、繁殖期は非常ににぎやかです。
今年(2010年)は4月中旬、1つのペアに初めて産卵が見られました。上野動物園ではシジュウカラガンを増やすため、卵を巣から取って、西園の「ズーストック舎」に運び、孵卵器に入れて育てます。卵を採取するのは、湿原エリアにカラスなどの外敵が多いことも理由のひとつです。
上野動物園の東園では、シジュウカラガンがいるのは湿原エリアとその隣の五重塔のそばですが、西園では放し飼いにされています。
ここで興味深いエピソードをご紹介しましょう。繁殖期に入った2010年3月20日ごろから、毎朝、西園のシジュウカラガンのうち2羽が、東園と西園を結ぶイソップ橋をわたり、はるばる東園の湿原エリアまで来て、鳴き合うのです。昨年(2009年)も同じ行動を目撃しました。
そこで毎日よく観察していると、西園からの訪問者がいつも同じ個体であること、そして、あいさつに応ずる東園のシジュウカラガンも同じ個体だと気づきました。調べてみると、鳴き合うシジュウカラガンは、2007年にズーストック舎でいっしょに孵化して育った個体だったのです。
湿原エリアと西園はずいぶん離れています。西園のシジュウカラガンは、東園のなかまの存在をどうやって知ったのでしょう。野生の勘、なのでしょうか。
はるばる東園までやってきた2羽は、開園前に飼育係に促され、イソップ橋を渡って、西園に戻って行きます。観察すればするほどいろいろなことがわかり、ますます魅力が感じられる鳥たちです。
・過去のニュース(メールマガジンNo.52より)
「
シジュウカラガンの受難──カルガモの愛は一途だった」
(2002年3月)
〔上野動物園東園飼育展示係 生井沢初枝〕
(2010年04月30日)