昨年(2009年)2月、冬でもサナギにならず、幼虫のまま野外にいたナミアゲハの幼虫を「ど根性アゲハ」と名づけて紹介しました(
ニュース)。
しかし今年は、昨年をはるかに上回る(?)ど根性を見つけてしまいました!
先日、いつものように園内移動用の原付バイクに乗ろうとしたところ、バイク後輪のホイールにゴミがぶら下がっていたので取ろうとすると、なんとチョウのサナギでした。
ぶら下がっていたのはジャコウアゲハのサナギです。都市部ではあまり見かけませんが、多摩動物公園の園内、とくに昆虫園の周囲では食草が多く植えられているため、春から夏にかけてときどき見かけるチョウです。
ジャコウアゲハはサナギで冬を越しますが、そのためには遅くても10月~11月ごろまでにサナギにならないと食草もなくなり、寒さにも耐えられません。
バイクでサナギになってしまった時期も10~11月ごろと考えられます。多摩動物公園は広く、起伏も激しいため、職員は車や原付バイクで園内を移動します。私も毎日、担当の昆虫の餌となる植物を採取したり、移動したりするために原付バイクに乗っています。ということは3~4か月もの間、ものすごい遠心力と振動を受けながら、私に気づかれることなく、じっと耐えてきたということになります。
野外のチョウの幼虫は病気や捕食者など、さまざまな脅威にさらされながらも、なんとかサナギになれば一安心という感じでしょうが、たまたまバイクのホイールでサナギになってしまったこのジャコウアゲハは、人生(虫生?)最大の苦難の日々を過ごしていたことでしょう。
実際に遠心力や振動がサナギにどんな影響を与えるかはわかりませんが、サナギの中身が遠心力でかたよってしまったりしないのか、ちょっと心配になってしまいます。
幼虫がサナギになるとき、自分で出した糸で枝などにくっつきますが、この糸をはずしてやれば、簡単に採取できます。そこで、サナギを苦難の日々から救出し、飼育下のジャコウアゲハのサナギといっしょにしました。
このど根性サナギもやっと一息つけたのではないでしょうか。あとは無事に羽化してくれるのを待つばかりです。それにしても、生き物の生命力には驚かされてばかりです……。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 牧村さよ子〕
(2010年02月26日)