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いじめられっ子?いばりんぼう?トナカイのメス「マキ」
 └─多摩  2010/01/20

 シカのなかまで、雌雄ともに角をもつのはトナカイだけです。多摩動物公園で飼育しているトナカイのメス6頭のうち、「ハナ」を除いた5頭が角をもっています。ハナは生まれつき角が生えてこないのです(写真上)。

 角は毎年生えかわるのですが、今回は、角の有無で性格が変わってしまう「マキ」のお話をします。

 メス6頭は、現在群れで飼育しています。私がトナカイの飼育担当になった2009年4月、メスたちの角は落ちた後で、生え始めたばかりでした。そんな中、かわいそうなメスが目につきました。夕方、運動場のそばにある部屋の中で餌を与えるのですが、マキだけが部屋に入れず、なかまがおいしそうに餌を食べるすがたを横目で見ながら、ぽつんと部屋の入口に立っていました。しかも、マキが餌を食べようとすると、他の個体に追い払われてしまうのです。

 朝は運動場に餌を置くのですが、マキはやはり遠慮がちです。とくにマキを追い払おうとするのは、角をもたないハナです。ハナは後ろ足で立ち上がり、前足で叩くようにマキを攻撃していました。「かわいそうなマキ」──顔の表情までしょんぼりして見えるマキに私は同情してしまいました。

 角は4月ごろ生え始め、ぐんぐん伸びて、夏の終わりにはすっかり成長しています。成長中の角は茶色をしており、「袋角」(ふくろづの)と呼ばれ、中には血液が通っています(写真中)。角の成長が終わると血液は通わなくなり、皮がむけて硬い白色の角に変わります。

 マキの袋角は順調に成長し、9月には皮がむけて硬い角になりました。メスの中でいちばん大きい角です(写真下)。そんな立派な角を得たマキは──なんと性格ががらりと変わり、「いばりんぼう」に大変身しました。それまでいじめられっ子だったのに、今度は角を振りかざして、攻撃的にふるまっています。今までの仕打ちを何倍にもしてやり返すかのように、餌を食べているときも角を振り、みんなを追い払います。こうなると角をもたないハナは逃げるしか術がありません。立場は逆転し、今度はハナがしょんぼり顔です。

 今もマキは絶好調でいばり散らしていますが、春には角がとれてしまいます。いじめられっ子に戻るカウントダウンがすでに始まっているのです。マキのいばりっぷりを見ていると、角が取れた後でいじめられるのも、しかたのないことのように思えてきます。

 「いばりんぼうのマキ」は、角が立派に生えている時期にしか見られないトナカイ舎の名物です。

写真上:生まれつき角が生えないハナ
写真中:4月のマキ(袋角)
写真下:冬のマキ

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