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産むの?産まないの? トナカイの出産
 └─多摩  2009/07/31

 2009年6月15日、多摩動物公園でトナカイの赤ちゃん(メス)が生まれました。母親は「ハナ」。赤ちゃんはメスで、「ノンノ」と名づけました。ノンノはアイヌ語で「花」という意味です。トナカイという言葉はアイヌ語に由来すると言われており、赤ちゃんにもアイヌ語由来の名前をつけました。

 今回、出産前のハナの行動には翻弄されました。ハナのお腹と乳首が大きくなっているのに気づいたのは、2009年5月上旬のことでした。妊娠を疑いましたが、「去年もお腹と乳首が大きくなったのに妊娠ではなかった」とのことでした。それと同時に、昨年のハナは肥満気味だったと教えてもらいました。

 諦めきれない私は、かがみ込んでハナの乳を仔細に観察したり、胎動の有無を確かめたりしましたが、なかなか確信を抱くにはいたりませんでした。

 6月8日、あいかわらずハナのお腹を観察していたときのこと、中からドンドンと叩くのがわかりました。胎動です! そこで、安心して出産させるために、ハナを群れから隔離することにしました。

 翌朝、ハナのようすがなにやら変です。落ち着きなく舎内を歩き回り、ときどき腰をかがめて踏ん張っています。「赤ちゃんを産みそうだ!」と思い、獣医師に連絡し、赤ちゃんが出てくるのを楽しみに待っていました。12時、13時、14時……。待てど暮らせど、産まれません。結局、この日はそのままトナカイ舎をあとにすることになりました。

 次の日の朝、きっと生まれているだろうと、私はドキドキしながらトナカイ舎を訪れました。ハナの部屋をそっと覗くと、赤ちゃんの姿はありません。ハナのようすにも変化はなく、ときどき腰をかがめて踏ん張っています。「ハナもお腹が痛くてつらいだろう」と心配していたのですが、午後になると、ハナは何ごともなかったように座って反芻していました。しかもそれ以降、踏ん張ることもしなくなってしまい、「今までのは何だったの?」と自分の観察眼を疑いました。

 結局ハナは、私が休みの6月15日の朝、出産しました。第一発見者になることを楽しみにしていたのですが、果たせませんでした。楽しみにしていることほど、なぜかいつも私が休みの日に起こるのです。ハナが産みそうで産まなかったとき、そんな予感がしていました。

 何はともあれ、無事に生まれてくれて本当に安心しました。最近、角が生え始めたノンノ。これからも元気に成長することを願っています。

写真上:ノンノ
写真中:母親ハナと娘ノンノ
写真下:角が生え始めたノンノ(トナカイはシカ科で唯一、オスにもメスにも角が生える種類です)

〔多摩動物公園南園飼育展示係 吉田真理子〕

(2009年07月31日)



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