〇 塩ビ管パズルフィーダー
パズルフィーダーって何だろう?と思う方もいらっしゃるかもしれません。パズルフィーダーとは、動物がえさを取るのにちょっと工夫が必要になる仕掛けのことです。
本来、動物たちはえさを探して食べることに多くの時間を費やします。一方、動物園では簡単にえさが手に入ることから、短時間で食べ終わり暇を持て余してしまいます。そのためパズルフィーダーは、より時間をかけて食べてもらうことで動物福祉を向上させる手段のひとつなのです。というわけで、飼育係が手づくりで、ゴリラにパズルフィーダーを作成しました。
ゴリラの展示場は擬岩や植栽で自然を模した景観をしています。そのため、なるべく人工物感のでないものをつくりたい……と考えました。そこで、塩ビ管を傷つけて表面をあぶり、擬木のフィーダーをつくろう!と考えました。しかし、今回の相手は手先が器用で力も強く、頭のいいゴリラたちです。どうすれば壊されずに使ってもらえるのか、ということに頭を悩ませました。
※塩ビ管:合成樹脂(プラスチック)のポリ塩化ビニルでできた配管素材のことで、正式名称は「硬質ポリ塩化ビニル管」。
〇 製作の苦労
塩ビ管を傷つけてあぶるだけ……と聞くといかにも簡単そうに思えますが、これがなかなか大変なのです。まずは、あぶったときに茶色が出るよう、表面全体のコーティングを紙やすりで削り落とします。
次に、幹の感じをよりリアルに見せるため、工具を使って太いものから細いもの、長いものから短いものなどさまざまな種類の傷をたくさんつけなければなりません。しかも、グラインダーという回転工具で傷つけるので、粉塵が襲いかかってくるなかでの作業になります。
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塩ビ管に紙やすりをかける | 塩ビ管にグラインダーで傷をつける |
なんとか全体に傷をつけ終えたら、フィーダーを振ると中に入れたえさが出てくるように穴をあけます。そして、表面をバーナーであぶり、もう一度、紙やすりをかけて煤(すす)を落とします。あとは、塩ビ用の強力なボンドで蓋をして、蓋も本体と同じ過程を施して何とか完成です。
とりあえず、今回は1m以上のものから30cmくらいのものまで、いろいろな長さのものを7本用意しました。長いものは穴にロープを通し、先を結んで玉にすることで抜けないようにしてから展示場に吊るしました。
飼育作業の合間をぬって作成しましたが、完成に5日ほどかかってしまいました。
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完成したパズルフィーダー | ロープが抜けないように結んだ玉 |
〇 早速ゴリラへ!
どのようにして使うかな?という期待に胸を膨らませ、早速ゴリラに与えてみました。すると……あっという間に破壊されてしまいました。ロープで吊るしたフィーダーは外され、床や壁に打ち付けて蓋が木っ端みじんに……。もちろん、中身のえさは空っぽでした。きっと少しずつでなく、一気においしく食べたことでしょう。
ということで、ここからゴリラと飼育係の知恵比べです。
続きは後編へ!
ゴリラに壊されたパズルフィーダー
〔上野動物園東園飼育展示係〕
(2023年01月03日)
(2023年01月16日:後編について追記)