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アジア園で6羽のカリガネが育っています
 └─ 2024/06/14
 多摩動物公園でカリガネのひなが6羽成育中です。高病原性鳥インフルエンザ対策でカリガネが展示中止だった時期と繁殖期がかさなってしまい、みなさまにひなの成長ぶりをご覧いただけませんでした。そこで誕生するまでのようすをご紹介します。

 カリガネは渡り鳥で、冬は日本ですごし、繁殖期の夏は北極圏ですごします。白夜の時期に繁殖するため、多摩動物公園のカリガネ舎では3月初旬からライトを点灯して「昼」の時間を長くし、1か月ほどかけて点灯時間を徐々に延ばし、3月下旬には終夜点灯、白夜の日長を再現しました。

 4月初旬に産卵が見られるようになりましたが、その後も1週間ほど産卵が続き、卵を抱いたり抱かなかったり不安定でした。まず「緑黄」(多摩動物公園では足につけたリングの色で個体を呼び分けています)という個体が卵を産み切ったようで、抱卵し始めたのですが、あきらかに抱ききれない数の卵の上に座っていました。

 おそらくひとつの巣に複数の個体が卵を産みに来たのでしょう。巣から取り出して数えてみると11個もありました。これではまんべんなく卵を温めることができず、死んでしまう卵が出ると思い、緑黄が抱ける数の6個だけを巣に戻しました。抱えきれない卵は孵卵器で人工的に温め、孵化直前に親に戻すことにしました。

 しばらくすると、緑黄のすぐとなりで「黄白」という個体が抱卵を始めました。


手前が「緑黄」、奥が「黄白」。ならんで抱卵しています

 このままでは、2羽のあいだにトラブルが生じると卵が割れてしまう可能性があります。そこで黄白の巣は撤去して卵は孵卵器に移し、緑黄だけが抱卵できるようにしました。ところが、2日ほどで緑黄の巣を黄白が乗っ取ってしまいました。

 じつは緑黄はもとから歩行に問題があり、ペア相手のオスも足がよくありません。一方、黄白は体格もよく、ペアとなったオスも気が強めの個体でした。やはり強い個体が勝つようです。

 また、「赤赤」というメスも別の場所で抱卵し始めました。赤赤のペアはすでに何回も繁殖に成功しているので、こちらは安心してまかせることができました。

 5月3日、孵卵器に入れた緑黄の卵が間もなく孵化しそうな状態になったため、黄白のもとに戻しました。黄白にとっては、抱卵期間が少し短くなってしまうので、しっかり育雛してくれるか心配でした。

 5月5日から6日にかけて5羽のひなが孵化しました(ほかの卵は残念ながら途中で成長が止まってしまいました)。黄白はこちらの心配をよそに、しっかりと子育てをしてくれました。

 ただ、ほかの個体の近くに座りたがるのか、黄白は孵化したひなたちを連れて赤赤の巣のすぐとなりで休んでいました。 すると、一部のひなは抱卵中の赤赤の羽の下に潜り込んで休息したり、「刷り込みとは?」と思うような行動もしていました。5月7日と8日には赤赤の卵も2羽かえり、全部で7羽が孵化しました。


孵化したばかりのひなたち(2024年5月6日撮影)

 例年、孵化しても成育率はあまりよくないため、「どうか運動場のなかで倒れていませんように」と毎朝祈るような気持ちでカリガネ舎に向かっていましたが、黄白ペアと赤赤ペアの双方がお互いのひなを守りあったようで、現在6羽が無事に成育中です。

 また、群れのほかのおとなたちも、飼育係がひなに近づくとふだんよりも激しく威嚇してきました。カリガネは他個体の子どもに対してとても寛容で、群れ全体で子どもを見守っているような印象を受けました。

 もともと成育の早いガン類の中でもカリガネはひときわ成育が早く、5月28日にはすでにおとなの羽毛がちらほら見られるようになりました。

 ひな特有のふわふわの羽が見られるのはもう少しかもしれません。野鳥対策は継続するため、少しご覧いただきにくいかとは思いますが、多摩動物公園にお越しの際は、ぜひカリガネのことも見に来てください。ヤギ舎の手前から左の小径に入り、ノウサギ・モルモットの裏手の木橋から見ることができます。


 今年の課題は、カリガネたちが抱卵したいと思えるような場所が少なく、ひとつの巣に複数の個体が卵を産んでしまうことでした。来年は営巣場所を増やし、多くのペアが営巣できるような環境を整えたいと思います。


こんなに大きくなりました(2024年6月8日撮影)

〔多摩動物公園南園飼育展示第2係 担当班〕

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