ニュース
カリガネのひなが1羽育ちました
 └─多摩 2021/07/16
 みなさんはカリガネという鳥をご存じですか? 多摩動物公園のなかでも知名度が低めの鳥かもしれませんが、目の周りの黄色いラインが特徴の水鳥で、カモのなかまです。

 そんなカリガネが今年は1羽育ちました。多摩動物公園では3年ぶりの繁殖です。昨年度は有精卵が多くとれ、親鳥も抱卵してくれたもののすべての卵が腐敗してしまい、孵化には至りませんでした。はっきりとした理由はわかりませんが、巣材が足りなかったこと、土壌が清潔ではなかったことを原因として考えました。
 
 そのため、昨年から巣材となる落ち葉を集めたり、土壌を消毒したりして繁殖に備えました。また、カリガネは白夜になる高緯度の地域で繁殖をするため、3月上旬から夜間に放飼場の点灯を開始し、徐々に点灯時間を延長して、3週間ほどで白夜の状態をつくり出しました。

 白夜の状態になってから約2週間、4月上旬からカリガネの産卵が始まりました。3ヵ所ほどで抱卵が確認できましたが、そのうち1ヵ所は親が落ち着かず、抱卵をやめてしまいました。

 カリガネの抱卵期間は約28日です。産卵を開始してから約1ヵ月、色環(個体識別のために足につけている色のついたリング)が「赤赤」という個体が抱いていた卵が、5月10日に2羽孵化しました。孵化した1羽は朝にはすでに巣から離れて歩いており、他の大人が周りについていました。もう1羽は夕方に孵化しました。朝に孵化したひなは1羽で出歩いていたので心配でしたが、夕方になると親鳥の羽の下で休んでおり、安心しました。


孵化当日の朝のひな

 不思議だったのが、赤赤のペア相手ではなかった「白白」というオス(本来は「黒黒」というメスとペア)がひなの孵化後、赤赤とひなについて行動するようになったことです。赤赤の抱卵中は特に巣の周りを守ることはしていませんでした。しかし、ひなが孵化すると父親になったつもりなのか、黒黒をほったらかして、赤赤とひなを守るように周りの個体や飼育担当者を威嚇するようになりました。

 もう1ヵ所の巣は、今年もすべて卵が腐敗してしまいました。放飼場のなかでも日当たりが悪い場所なので、もしかするとこの場所では孵化が難しいのかもしれません。

 5月10日に孵化したひなたちは、翌日には小松菜を食べ始め、孵化3日目にはすでにプールに入っていました。しかし残念ながら、5月17日、1羽は大人に踏まれてしまったのか、卵黄破裂により死亡しました。


孵化2日目のひな
(大人と同じペレットを食べています)

 残った1羽はすくすくと成長し、孵化後1ヵ月(6月10日)で大きさは大人とくらべるとひと回り小さく、顔はまだ黄色がかっているものの、体は親と同じような模様になりました。

 なお、白白はひなの孵化後1ヵ月ほどで母子への執着が薄くなり、さらに2週間もすると元のペアの黒黒といっしょに行動するところがみられるようになりました。


孵化後1ヵ月のひな(手前:ひな、奥:赤赤)

 2ヵ月(7月12日)もすると、顔の周りの白い部分がないところ以外は大人と同じような姿になりました。また、鳴き声も大人の声に近づいてきました。


孵化後2ヵ月のひな(手前:ひな、奥:赤赤)

 今年は無事に1羽が育ちましたが、孵化寸前で親に踏まれてしまい孵化に至らなかった卵や、腐敗してしまった卵など、飼育環境がもっとよいものであれば、孵化、成育できたかもしれない卵もありました。

 母鳥が安心して抱卵できるような環境、また卵が腐らないような環境づくりを来年に向けて取り組み、安定した繁殖をめざしていきたいと思います。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 嵐田〕

(2021年07月16日)



ページトップへ