ニュース
世界初のトウキョウトガリネズミの出産に出会うまで
 └─ 2022/01/04
 2021年8月に世界で初めて、国内では北海道にしか生息していない世界最小級の哺乳類であるトウキョウトガリネズミの出産に出会うことができました。それも3頭です。

 母獣は、頭胴長約4cm、体重2.0g前後から、体重が約1.8倍~2.1倍まで増加し、8月上旬から中旬にかけて3頭の成獣はそれぞれ7頭、5頭、2頭という順で新生仔を出産しました。出産後2日目の新生仔は、体重0.25g、頭胴長約22mmでした。概ね4日目から鳴き始め、16日目に体毛が生えそろい、18日目に開眼し、母獣とほぼ同じ頭胴長と体重になり、24日目に離乳が始まり、30日目には独立しました。妊娠期間は15日程度で、既知のトガリネズミの妊娠期間より約10日短く、子育て期間がほぼ同じということがわかりました。


【動画】トウキョウトガリネズミ新生仔の成長記録

 まとめてしまえばこのように簡単ですが、実は、この出産に出会うのに19年もかかりました。この出会いには、いくつも超えなければならないハードルがありました。

 トウキョウトガリネズミは1903年に国内で初めて発見されて以来、2001年までは偶然の捕獲しかないと言われるほどの希少な種で、11地点46頭しか捕獲されていませんでした。その間、生きて捕獲されたのは1例のみ。2002年に私が本種を捕獲しやすい海浜環境を発見後、生きて捕獲し、飼育できる技術が確立できたと言えるのは2005年ごろです。この年から、多摩動物公園との共同研究が始まりました。実は、それからが大変でした。

 「毎年確実に捕獲できるのは嶮暮帰島のみ」、「繁殖期の6月~8月はほとんど捕獲できない」、「捕獲されるのは約8割がオス」という、繁殖をめざすには困難な現実にぶつかりました。さらに、小さな島であることから、本種を絶滅させないように細心の注意が必要でした。そこで、2008年からは年1回、捕獲個体数が多い9月に捕獲して、飼育下で翌年に繁殖させることをめざしました。しかし、高潮と津波が嶮暮帰島(けんぼっきとう)を襲い、本種の生息環境は大きな影響をうけ、飼育個体の確保が困難な時期が続きました。

 転機は、2018年に訪れました。それは、嶮暮帰島以外の新しい捕獲地の発見です。これにより、島であるがゆえの種々の制限がなくなり、これまでより捕獲頭数を増やすことができるようになりました。そして、私たちの213、214、215個体目の捕獲個体が出産したのです。

 しかし、まだ不思議な事象が多数あり、実は本種の生態解明の緒についたばかりなのです。ここから、本当のチャレンジが始まります。


捕獲地の環境

〔環境省希少野生動植物種保存推進員 河原淳〕

◎関連ニュース
トガリネズミ類の繁殖生態解明の取組み成果(2021年10月14日)

(2022年01月04日)



ページトップへ