多摩動物公園のキリンの中には、他の個体の足に角をからませに行く癖をもつ個体や、飼育係の脇のにおいを嗅ぎに来るナゾの癖をもつ個体など、個性豊かなキリンたちがいます。
中には、冬限定の行動ですが、キリン舎に敷かれているワラを使って「作品」をつくる個体がいます(キリン舎にワラを敷く理由については
こちらの記事をご覧ください)。
ワラを口に含む行動は多くの個体に見られますが、そのほとんどが、ワラを口にくわえるだけだったり、口の中に入れ、結局唾液でベタベタにしてしまったりする個体がほとんどです。しかし、「ユーカリ」(メス、13歳)はくちびると舌を使って器用にワラをまとめ、ワラ細工のような作品をときどきつくります(写真左)。
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ユーカリによる作品 | ユリカによる作品 |
完成後のワラ細工は何度か目にしたことはありますが、どうやってつくっているかナゾでした。そこで、ワラ細工をつくっているようすをじっくり観察してみました。
まず、ワラを口に入れ、バラバラにならないように上あごと下あごで挟む。次に上下のあごを前後に動かしてワラどうしを絡ませ、束にする。最後にワラの束を舌でねじって作品を完成させていました。詳しくは動画をご覧ください。
【動画】ワラ細工のメイキングシーン
左:ユーカリ、右:母親ユーカリの口の動きをまねしながらワラ細工に挑むユリカ
現在、ワラ細工の“わざ”は、娘の「ユリカ」(メス、1歳)に受け継がれています。ユリカは2019年の冬、キリン舎内にワラを敷き始めたころからワラの束を口にくわえ始めました。母親のユーカリの口の動きをまねして、毎日ワラの束をくわえてワラ細工をつくろうとしています。しかし、ユリカの作品はワラの束をまとめる工程がたりないせいか、すぐにバラバラになります(上の写真右)。
タイミングがよければ、キリンを運動場に出すときに、ワラをくわえたままのユリカを見られるかもしれません。
なお、先月(2020年2月17日)に生まれたユーカリの息子の「ジム」(オス、1か月齢)も生後8日齢のとき、偶然かもしれませんがワラ1本を口にくわえてモグモグしていました。
もしかしたら私たち飼育係が知らないあいだに、ワラ細工の“わざ”は母から子へひそかに受け継がれていっているのかもしれません。今後、ワラ細工の師匠であるユーカリを超える作品を、ユリカとジムがつくり上げることを期待しています。
〔多摩動物公園北園飼育展示係 土方美咲〕
(2020年03月27日)