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蓑虫のお話[2]生まれたてのオオミノガの幼虫たち
 └─2020/03/06

 前回、名前はよく知られているけれど、どんな虫かあまり知られていないミノムシについて簡単にご紹介しました(前回の記事はこちらです)。今回は、そんなミノムシの繁殖についてお伝えします。

 現在、多摩動物公園の昆虫園で展示しているのは、日本でいちばん大きなミノムシ「オオミノガ」です。園内にも生息していて、クヌギやサクラなど、いろいろな木の葉を食べてくらしています。他の虫に与えるえさとして木を切っていると、たまに葉の裏にミノムシがついていることがあります。数年前からそれを集めて飼育を始めました。

 越冬から目覚めたミノムシは蓑の中で蛹になり、6月頃にオスが羽化して蓑から出てきます。メスは成虫になっても蓑の中にとどまるため、羽化しているのか外からうかがい知ることはできません。しかし、ときどき蓑から脱落してしまうメスの成虫がいたので、オスもメスも成虫になっているであろうと期待していました。ただ、いっせいに羽化するわけではなく羽化はポツポツと断続的に続いていましたし、成虫の寿命も短いので、オスとメスの羽化のタイミングが合うか心配しながら観察していました。

 羽化して蓑の外に出てきたオスは飛ぶことができます。蓑にとどまるメスが放出するフェロモンに誘われ、オスはメスの蓑を探しあてます。オスはメスの蓑の先に腹を差し込んで交尾すると言われているのですが、残念ながら今回は観察できませんでした。


孵化してまもないオオミノガの幼虫(右は拡大)


【動画】オオミノガ孵化当日のようす。すでに小さい蓑を作り、体を守っています。同じ場所に留ま
るのを避けるかのように動き回っていますが、そのスピードは孵化したてとは思えないほどです。

 2020年7月23日、展示ケースを見ると、長さ1ミリほどの黒いものが無数に動いています。小さな小さなミノムシの赤ちゃんです。きちんと数えたわけではありませんが、1,000匹以上いそうです。幼虫たちはメスの蓑の先端から糸につかまってぶら下がり、外に出てきます。先に出てきた幼虫はすでに小さな蓑をまとい、とにかくよく動きまわり、隙間があれば外に出ていこうとしていました。ある程度成長したミノムシはそこまで動き回る行動は見せません。小さな幼虫の活発な動きにびっくりするとともに、掃除のときに逃げないよう気をつける必要があります。


孵化後1か月半、クヌギの葉をモリモリ食べるオオミノガの幼虫

 小さいながらえさの葉をモリモリ食べ、成長に合わせて蓑に葉をつけて大きくしていくようすも観察できました。孵化3日目の蓑のサイズは長さ2ミリ、1か月後には6ミリ程度にまで成長しました。秋口には4センチ程に成長し、少しずつ食欲が落ち着いてきました。野外のミノムシはこの後、越冬に向けて活動を休止すると思うのですが、昆虫園では温かい部屋の中で飼育していたため、越冬せずに年末ごろから羽化する個体がポツポツと現れました。今は越冬させるため、暖房を切った部屋で展示しています。

 きのう3月5日は啓蟄。もう少し温かくなったら活動を再開し、チョコチョコと動き出すことでしょう。今年も繁殖してくれるかドキドキしつつも見守っていきます。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 佐々木愛子〕

(2020年03月06日)


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