クロツラヘラサギはアジアを中心に生息し、毎年冬になると日本にも越冬のためにやってくる鳥です。名前のとおりヘラ状のくちばしをもち、魚などを挟んで丸飲みします。多摩動物公園は日本でいちばん多くのクロツラヘラサギを飼育しています。
2019年1月8日、台湾の台北市立動物園に向けて4羽のクロツラヘラサギが出発しました(
お知らせ)。4羽の中には、台北市立動物園と多摩動物公園の連携で生まれた個体が含まれていました。
2010年に多摩動物公園へオスのクロツラヘラサギが1羽やってきました。台湾で保護され、台北市立動物園で長らく1羽だけで飼育されていました。クロツラヘラサギの最大の越冬地である台湾では、毎年2,000羽ほどのクロツラヘラサギが冬を越します。
多摩動物公園ではクロツラヘラサギを飼育していたものの、一部の個体しか繁殖せず、その結果、血統が限られていたため、その解決が課題でした。そこで新たな血統のための候補個体として、台北市立動物園のオスが来園することになったのです。この個体を私たちは愛称として「タイペイ」と呼ぶようになりました。
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奥:タイペイ、手前:メス | タイペイの子どもたち | 台湾に向けた搬出作業のようす |
しかし、タイペイは右翼を骨折して保護されたため、飛翔することができませんでした。多摩動物公園のクロツラヘラサギの繁殖ケージは巣台までの高さが3メートルあり、交尾も巣台でおこなわれます。飛翔できないタイペイには不利な環境でしたが、巣台を低くしてみたり、交尾相手となるメスが低い巣に留まるようにしたり、私たちは工夫を重ねました。
そして2013年に繁殖に成功。新たな血統が誕生しました。その後も順調に繁殖を続け、孫世代まで含むと2018年12月までに16羽が育っています。
タイペイを多摩動物公園へ送って以来、台北動物園にはクロツラヘラサギがいませんでした。そこで今回、多摩からタイペイの子を含む4羽を贈ることになりました。台湾と日本の動物園が協力してクロツラヘラサギの保全に向けた動きがさらに進められたのです。4羽が台北市立動物園でも繁殖し、多くの方にその存在を伝え、クロツラヘラサギについての関心を高めてほしいと思います。
〔多摩動物公園野生生物保全センター 石井淳子〕
(2019年01月11日)