暗く、冷たく、水圧のかかる深海には、特殊な環境に適応した不思議な姿や生態をもつ生き物たちがくらしています。そんな深海のさまざまな生き物たちをもっと見てもらいたい! その思いで2018年にオープンしたのが「深海の生物 トピック水槽」(以下、トピック水槽)です。この水槽では、大きな水槽では飼育が難しい生物や、他の生き物との同居が難しいもの、採集や調査で集めた珍しい生き物などを展示しています。
現在展示しているのはクサウオという魚です。うろこをもたず、粘膜で覆われた体表と、吸盤状の腹びれを使って岩や壁などにくっつく姿が特徴的です。
葛西臨海水族園では国立研究開発法人水産研究・教育機構と包括連携協定を結んでおり(
協定締結のおしらせ)、その事業の一つとして漁業調査船「若鷹丸」でおこなわれた底曳網調査に同行した際に採集しました。2020年6月15日から8日間にわたる調査を経て無事に水族園に持ち帰り、2021年からトピック水槽で展示を始めました(若鷹丸での調査について詳しくは、水族園で発行している
「SEA LIFE NEWS」95号をご覧ください。
クサウオを「トピック水槽」で展示したのには理由があります。じつはこのクサウオ、かなりの大食漢。えさのアジやイカ、甘えびの切り身など、なんでも大きな口で吸いこむようにして食べるのです。そのおかげか成長も早く、搬入した当初は全長12cmほどでしたが、今ではその倍以上の大きさに育っています。
【動画】「深海の生物 トピック水槽」のクサウオ
えさを水槽に入れると、ふだんのゆったりとした姿からは想像できない勢いで飛びつきます。大きな口に入るものは何でも食べる勢いです。クサウオのなかまは胸びれと下あごににおいや味を感じる感覚器があり、底を這うようにしてえさを探しまわります。また、頭部には水流や水圧を感じる感覚器があります。これらの器官は、えさに出会うことの少ない深海の環境でもより的確にえさを探し出すのに役立っているのかもしれません。
クサウオの食いっぷりを初めて目のあたりにして、これでは他の生き物と同居させてしまうと自分より小さい生き物を食べつくしてしまうと容易に想像できたので、トピック水槽で単独で展示することにしました。
深海の厳しい環境下で巡り合った獲物を逃さない!そんな気迫も感じられる豪快な食べ方を見ることができるかもしれません。
※葛西臨海水族園は現在、臨時休園を継続中です。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 石神まゆか〕
(2021年05月07日)