世界最大のタコといわれるミズダコ。腕を広げた大きさが9.6メートルという記録もあります。北日本から北米カリフォルニアまで、太平洋北部の比較的冷たい海に生息していて、東京湾で見ることはめったにありません。しかし2017年12月から「東京湾にもいるこんな生物」水槽で飼育試験中。それにはこんなわけが……。
2010年10月、ジャイアントケルプが生い茂る「海藻の林」水槽でミズダコの展示を始めました。水深4メートルほどの深い水槽内を縦横無尽に動きまわるようすはとても人気がありましたが、ある日、潜水作業中のダイバーに抱きついてしまうというアクシデントが起こりました(くわしくは過去のニュース「
ダイバーに襲いかかるタコ? ミズダコの展示を始めました」[2011年1月14日]をご覧ください)。
ミズダコは好奇心でダイバーに寄ってきたのでしょうか。もしくは、えさをもらえると思ったのかもしれません。大事にはいたりませんでしたが、一歩間違えば力の強いミズダコに引っ張られておぼれてしまう危険性がありました。この水槽は、掃除や海藻の管理のため、定期的な潜水作業が必要です。その後も潜水作業をするときは多めにえさを与えて食事に夢中にさせるなどの工夫をしてきましたが、ダイバーにもしものことがあってはいけないため、ミズダコの展示を中止しました。
「巣穴」に入ろうとするミズダコ
私たちはいつかまた「海藻の林」水槽でミズダコを展示したいと思っていました。そこで、ダイバーに危険がないよう、潜水作業をする少しの間だけミズダコにじっとしていてもらえる「巣穴」を作ることを考えました。中に入ったら外側から蓋を閉め、ダイバーと接触しないようにするしくみです。ミズダコはとても頭がいいので、トレーニングをすればうまく誘導できるかもしれません。
試行錯誤のすえ、蓋を閉めることができる「巣穴」が完成し、水深が浅く、ミズダコを単独で飼育することができる「東京湾にもいるこんな生物」水槽を間借りして試験を始めた、というわけです。
今、水槽内にいるミズダコは腕を広げると1.5メートルほどの大きさです。最初は砂の中や別の隙間に隠れてしまうなど、こちらが思ったように動いてはくれませんでしたが、今では「巣穴」を自由に出入りするようになりました。外から蓋を閉め、ミズダコを意識せずに潜水作業もできるようにもなりました。
「海藻の林」水槽で再びミズダコを展示できるよう、くふうを続けています。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 中沢純一〕
(2018年04月27日)