この連載「新たな視点で見てみると」では今年2018年5月、ニホンアカガエルの前肢が突然生えてくることをお伝えしました。
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続々・新たな視点[13]──前肢は突然に:ニホンアカガエルの変態」
じつはこの映像を編集しているとき、オタマジャクシの尾の付け根あたりに、ほとんど透明だけど小さな丸っこい器官が心臓のように拍動しているのに気づきました。
【動画】ニホンアカガエル上陸直前のオタマジャクシ。尾の付け根あたりに
心臓のように拍動する器官がある。編集でズームアップ
オタマジャクシの心臓は頭と腹のあいだ、いわゆる胸の部分にあります。両生類も心臓は一つだと昔習ったような記憶があるので、「じゃあ、この拍動している器官は何?」「もしかして幼生であるオタマジャクシの時期には複数の心臓があるの?」と本気で悩みました。いろいろ調べてみると、どうやら「リンパ心臓」という器官のようです。
リンパ心臓とは両生類や爬虫類などがもつ器官で、体内にあるリンパ液を集めて静脈に押し戻す役割があるそうです。ただ情報が少なく、カエルには前後の肢の付け根あたりに左右1対ずつリンパ心臓があるということがわかりましたが、オタマジャクシのときはどうなのか不明です。
そこで編集した映像をリンパの研究者に見ていただきました。そのときの回答は「リンパ心臓である可能性は否定できないが、自分はカエルのそれを見たことがないので確定できない」、そして「簡単に確証を得る方法がある。この器官の周囲に色のついた液体を少量注射してみて、ここにリンパ液と共に色が集まってくればリンパ心臓であるといえる」というものでした。
すぐにでも確認をしてみたかったのですが、映像を撮影したニホンアカガエルのオタマジャクシはすでに上陸してすべてカエルになっています。そこで準備をしながら、他にも飼育しているトウキョウダルマガエルの産卵を待つことにしました。
待つこと約1か月、ようやくトウキョウダルマガエルが産卵しました。しかし、観察が容易にできるサイズになるまで成長を待たなければいけません。さらに2か月待ってようやく実験開始です。
【動画】トウキョウダルマガエルのオタマジャクシ。やはり尾の付け根あたりに拍動する
器官がある。青い色素を注射してみると、みごとに色が集まってきた
新しい映像を先の研究者に見ていただいたところ、「リンパ心臓でまちがいない。とても興味深い映像だ」とおほめの言葉をいただきました。
映像をじっくり見て気づいていなければ、自分はこの先もズーっとその存在を知らなかったであろうリンパ心臓。生き物には自分が知らないことがまだまだいっぱいです。
上陸が間近いトウキョウダルマガエルのオタマジャクシ
P.S. 色素を注射したオタマジャクシも上陸し、無事カエルになりました。
〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 三森亮介〕
(2018年10月12日)