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ニホンリスの死亡について(第2報)
 └─井の頭 2024/03/11
 井の頭自然文化園のニホンリス(以下「リス」と表記します)飼育施設において、リスの衛生対策のために2023年12月4日(月)、リスの体表の寄生虫(以下、体表の寄生虫を「寄生虫」と表記します)を駆除する薬を滴下し、あわせてケージ内の巣箱等に殺虫剤の散布をおこなったところ、リスが複数死亡しました(累計32頭。第1報[2023年12月11日発表]後、2024年1月13日に1頭死亡)。

 その後、死亡原因の調査をおこないましたので、結果等についてご報告いたします。

 今後は、このような事故が起こらないよう、公益財団法人東京動物園協会においては全職員が今回の事故を深く受け止め、再発防止に努め、確実かつ着実に業務を遂行してまいります。

 皆さまにはご心配をおかけし、改めて深くお詫び申し上げます。

1.当該施設について

本園 リス繁殖棟A棟(2階建てケージ、各階5室ずつ、計10室)

2.使用した薬剤及び使用方法

薬剤Ⅰ 寄生虫駆除剤(成分:フィプロニル、S-メトプレン)
薬剤Ⅱ 寄生虫駆除剤(成分:フルメトリン)
薬剤Ⅲ 殺虫剤(成分:トリクロルホン)

 薬剤ⅠとⅡは、リスの体表に滴下しました。1頭あたりの滴下使用量は、リスの体重などを考慮し、薬剤Ⅰは0.2ml、薬剤Ⅱは0.05mlとしました。また、薬剤Ⅲは、繁殖棟A棟全体に使用しました。井の頭自然文化園での過去の使用実例にもとづき、動物に噴霧する場合の希釈率0.3%の希釈液を準備しましたが、リスを長時間拘束することを避けて短時間で作業を終えられるよう、作業の過程で効率を高める目的で使用量を増量しました。
 園では過去に薬剤Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの使用例がありますが、3剤の同時使用は今回が初めてでした。また、リス専用の薬剤は存在していないため、園の判断で、他の動物用の薬剤を使用しました。

3.調査結果

 作業後、早期に死亡した個体については園の獣医師による解剖をおこないましたが、死因の特定にはいたりませんでした。そのため、外部機関による下記3点の検査を実施しました。

(1)腸内容物の細菌学検査
 常在菌である大腸菌しか検出されず、感染症による死亡の可能性は低いことが確認されました。

(2)病理組織学的検査(顕微鏡下での臓器の組織状態の検査)
 中毒を示唆する明らかな形態学的所見は認められませんでしたが、死因については他の検査の結果を参照し、総合的に判断するよう助言をいただきました。

(3)殺虫剤等化学物質の検査(臓器への薬剤蓄積量の検査)
・今回使用した3種類の薬剤が複数の臓器及び胃内容物から検出されました。
・薬剤Ⅰの成分とその代謝物は、薬剤Ⅱ、Ⅲに比べ、非常に高い臓器蓄積が認められました。
・薬剤Ⅲの成分は、早く代謝される特性があるため、検出量が少量であったものの、作業当日時点では、当初想定量の45gを255gに増加したため、多量の曝露を受けていたことは否定できません。

4.事故原因等

・体表に滴下した薬剤ⅠとⅡのうち、薬剤Ⅰは他の薬剤に比べて高い臓器蓄積が確認されました。この薬剤は経皮に比べ経口による毒性が高いとの報告があることから、リスが薬剤を経口で摂取したことで中毒症状をおこした可能性があります。

・今回の作業では、繁殖棟の消毒に使用した薬剤Ⅲが体表に付着してしまったことにより、毛づくろいの行動頻度が増し、体表に滴下または付着した各薬剤を経口摂取したと考えられます。

・薬剤Ⅲについては、検査個体からの検出量は少量でしたが、当該成分は他の2剤の成分に比べ早く代謝される特性があり、本剤の多量の曝露も中毒症状の原因となった可能性があります。

・3剤を同時使用することによる相互作用の有無、またそれが死因に直接影響したかどうかは、不明です。

上記に加え、以下のような安全意識に関する問題もありました。
・事前に実施計画書を作成しておらず、リスク分析をおこなっていなかった。
・現場作業を管理・指導する現場監督員を設けていなかった。
・繁殖棟A棟周辺の薬剤の飛散と残留の可能性など、周囲への影響防止の意識が低かった。
・作業中、薬剤Ⅲに関する使用上の注意事項であるゴーグル(目の保護措置)を未着用であった。
  

5.再発防止策

 動物への外部寄生虫駆除においては、予期せぬ影響が生じないよう、薬剤の同時投与をおこなわないことを原則とするとともに、以下のとおり、再発防止を徹底します。

(1)リスに限らず、前例のない作業については、事前に危害を防止する視点から複数の獣医師のチェックのもと、計画書を作成し、ミーティングで作業内容等を共有するとともに園の管理者へ報告するようルールを定めます。
(2)複数の職員でおこなう一定規模の作業については、現場監督者を設置します。
(3)計画段階で、周囲への危険性(散布薬剤の残留、園路面の悪化、落下物の危険等)を把握し、必要に応じて立ち入り規制等をおこないます。
(4)汎用する薬品類については、園の安全衛生委員会等を通じて用法用量、使用上の注意点をまとめ、共有するとともに、作業前の確認を徹底します。

6.井の頭自然文化園におけるニホンリス飼育施設及び飼育頭数(2024年3月8日時点、82頭)

リスの小径 : 42頭 ※繁殖棟B棟の工事にともない閉鎖中。うち3頭は繁殖個体

繁殖棟A棟 :  4頭
繁殖棟B棟 : 35頭 ※工事終了後、リスの小径から移動した32頭(うち11頭は今年度繁殖個体)と入院していた3頭
動物病院  :  1頭

【参考】リス飼育施設 位置図

(2024年03月11日)



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