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春から初夏へのシフゾウの変化
 └─2014/06/13

 多摩動物公園では、現在シフゾウをオス1頭、メス3頭計4頭を飼育展示しています。

 シカのなかまのシフゾウは、中国北京の南苑(皇帝の狩猟場)で飼育されていたものを、1865年にフランスのダビッド神父が新種のシカとして発見しました。その後内乱や洪水、戦争により原産地中国の野生では1920年に絶滅しましたが、イギリスの貴族が飼っていたものを基礎として、飼育下でその数を増やし、ヨーロッパの動物園から再び中国に送られ、中国の動物園や保護区で増えています。そうした経緯から、飼育下の保護個体群が大切であることを教えてくれた動物でもあります。

 「シフゾウ」という名前の由来については、以前の記事でも紹介しましたのでそちらもごらんください。

「シフゾウ『アオバ』の繁殖行動」(2013年07月19日)

 さて、2014年3月から6月にかけてシフゾウたちは白っぽく長い冬毛から夏毛へ換毛している最中です。腹側から抜け始め、最後に背中が抜けます。換毛中はあちこちに抜けかけの冬毛がボロボロの服のような感じでついていて、きれいではありませんが、すべて抜け落ちると背中に黒い線が一本ある茶色の美しい姿になります。

 メス3頭は換毛を終えましたが、オスの「アオバ」は背中に少し冬毛が残ってもう少し時間がかかるようです。

 角があるオスのアオバは、その角にも変化が現れています。2014年1月6日と7日に角が落ちて、落ちた角がついていた部分から新しい角が成長しています。この角は袋角と呼ばれ、表面は毛が生えてやわらかく、伸びた皮膚に血管が走っていて、血液が栄養を送ることで成長していきます。5月になると角の骨化が始まり、血液が止まり袋角の表皮が剥けはじめます。これを破角といいます。今年は5月5日に角の先端が剥け、9日からはアオバが昼夜を問わずあちこちに角をこすりだし、10日に大きく剥けました。このときはケガをしたのではないかと思うくらいフェンスや壁が血だらけになります。

 剥けた袋角の皮の内側には血が固まった痕があり、われわれのかさぶたのような状態です。現在は三分の二ほど剥けた状態です。

 このように春先から初夏にかけてシフゾウは見た目が変わります。この後夏から秋の繁殖期に向けては、行動が変わってきますので観察するとおもしろい時期に入ります。

写真上:換毛中のシフゾウのメス
写真中:ほぼ換毛の終わったメス
写真下:袋角から破角になったオス

〔多摩動物公園南園飼育展示係 井上邦雄〕

(2014年06月13日)



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