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続・新たな視点で見てみると(36)
 ヤマトオサガニの背中を流れる水
 └─2011/11/26

 まだ続きます。「続・新たな視点で見てみると」(29)(33)(34)(35)に引き続き、2008年7月に葛西臨海水族園のすぐ側にある人工干潟「東なぎさ」でおこなったトビハゼの調査で撮影した映像をご紹介します。

「続・新たな視点で見てみると(35)トビハゼ対ヤマトオサガニ」

 魚なのに、水から上がって泥の上をピョンピョン飛び跳ねているトビハゼもかなり変わっていますが、よく考えてみると干潟の上を歩いているカニたちも変だと思いませんか? 本来カニのなかまは水の中でくらし、エラを使って水中の酸素を取り込んで呼吸しています。干潟を歩いているヤマトオサガニも、呼吸にはエラを使っていますが、空気中でエラ呼吸ができるのでしょうか? 

 じつは、干潟を歩いているカニたちの体は空気中にありますが、エラは水に浸っているのです。

 カニのエラは甲羅の中に収まっていますが、エラの周りの空間に水も一緒に溜めこんでいます。そのため、陸上にいてもエラは水から酸素を取り入れることができるのです。

 しかし待って下さい。甲羅の中に溜めてある水は大した量ではありません。そこから酸素を取り入れて呼吸をしていれば、あっという間に甲羅の中の水には酸素がなくなってしまいます。そうならないためにヤマトオサガニは、エラの周りの水をいったん甲羅の外に出して、空気中の酸素を取り込ませた後、また甲羅の中に戻しているのです。詳しく見てみると、酸素が少なくなった水を口元から甲羅の外に出し、背中の甲羅を流れていく間に空気中の酸素を取り込ませ、その水を脚の付け根あたりからまた甲羅の中に入れています。

 今回の動画は、この水が流れるときに、背中に付いた泥が一緒に流れていく様子が映っています。カニの体は水に浸かっていないのに、いつまでも背中を流れている不思議な水です。

【ヤマトオサガニの背中を流れる水の動画】
 Windows Media形式 QuickTime形式


 人工的に作られた干潟で繰りひろげられる生き物たちの自然な営み。次回、ヤマトオサガニの興味深い行動をお送りし、「東なぎさ」シリーズはひとまず終了です。(「東なぎさ」は生物保護のため、ふだんは人の立ち入りが禁止されています。)

写真:背中に水が流れているヤマトオサガニ

〔葛西臨海水族園飼育展示係 三森亮介〕

(2011年11月26日)



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